奇妙な手土産

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奇妙な手土産

親友の母親、僕も子供時代から知っているおばさんが、よく家を訪ねてくる。 それはいいが、最近、妙な手土産を持ってくるようになった。 「妙な手土産?」 「花だ」 「あれか?花って、バラとかチューリップとかのフラワー?」 こくり。と親友はうなずいた。 処理に困る手土産だし、息子夫婦への手土産に持ってくるにしては妙だけど、親友がここまで困惑するほどでもないように思える。 おばさんに、花の趣味はなかったと思う。 ただ、息子の結婚を機に、新たに花に興味を持ったというのは不自然ではない。 新しい趣味と言うのは、最初の方ほどはまりやすいものだ。 誰かに披露したくて、手土産にするというのもおかしくはないように思える。 「ただな。花の種類が問題なんだよ。  スイセンとか、マリーゴールドとか、キンセンカみたいな変な花ばっか持ってくるんだよ」 「変なのか?ってマリーゴールドって学校とかに生えてたあのオレンジのちっちゃいやつだろ。  可愛い花じゃん」 グシグシと、親友が頭を掻きむしった。 自分の言うことがなぜ伝わらないのか、苛立っているように見えた。 「嫉妬、悲嘆。だぞ!マリーゴールドの花言葉!  スイセンはうぬぼれだし!キンセンカなんて失望、悲嘆!  悲嘆2回目だぞ。何回悲嘆して、何に悲嘆してんだよ、ウチのおふくろ!」 まくし立てる親友に、ちょっと引く。 「他にも、イチイとかニリンソウとかイチイとか、どっからとってきたんだよ!」 「オッケーグーグル。イチイの花言葉を教えて」 「イチイの花言葉は、悲哀、憂愁。  ニリンソウなんて、ずっと離れない。だぞ。  おふくろのやつ子離れする気ない宣言かよ」 「まあ、落ち着けよ」 そう言って、僕は親友の方へと麦茶のコップを滑らせる。 親友は麦茶を煽り、ポットから二杯目をつぎ始めた。 僕は、スマホでさっきの花言葉を検索してみる。 「ふ~ん。イチイとか木じゃん。  花屋の花って花壇に植えてあるようなの思ってたけど、色々売ってるのな」 「季節もバラバラだし、本当どこで手に入れてくるんだか」 「そういうの詳しい子いたじゃん。あの子に聞いてみれば?」 「とっくに別れたよ。当たり前だろ」 結婚してるのに、まだ付き合ってたら確かに問題だ。 フリフリふわふわで、花言葉とか花占いとか好きだった子だった。 あれは恋人としてならともかく、奥さんとかには絶対したくないし、愛人にしたら刺してきそうなタイプだった。 別れて正解だろう。 「え~と、ニリンソウ、イチイに?マリーゴールドと、後は」 「イチイなんて二回だぞ、キンセンカとスイセンな」 ため息をつく親友を見ながら、スマホの画面を送っていく。 どうやら遅めのマリッジブルーに襲われているみたいだ。 まあ、長い付き合いだし、ここは親友として一肌脱ごうじゃないか。 「ちなみに、奥さんはなんか言ってんの」 「いや、大輪のひまわりみたいに、明るく笑ってるだけ。  おふくろに直接問い詰めるのも怖いし、お前に相談しに来たんだよ」 「なるほどな。  でも、気にすることないんじゃないか。  おばさん花言葉なんて気にする人じゃないし」 「偶然だってことか。こんな変な花言葉の花ばっかり?」 釈然としない顔をする親友。 まあ、そう思うよな。 「変な花言葉の花だからだよ。  花屋ってのは、別に贈り物の花ばっかり扱ってるわけじゃないだろ。  例えば、生け花とか、業者用の花とか。  それ単体で使わないアクセントとしての花とか、色とか形とかだけで選ぶ花とかもあるわけだ。  そういうのは半端に売れ残っても、買い手はないだろうし。  知識のない人に売りつける花屋がいてもおかしくないだろ」 「おふくろが売れ残りを押し付けられてるったのかよ」 「おばさんが自分で変な花をチョイスしてるって考えるより、現実的だろ。  売れ残りだし、安くしとくっていえばつい買っちゃうだろうし。  花言葉なんて知らなけりゃ、花自体は綺麗なもんだし、手土産に悪くないだろ」 人としてどうかとは思うけど、向こうも商売なわけだし。 無知に付け込まれるのは、気分悪いし、ちょっと注意が必要と思う。 ただ、おばさんは善意で持ってきてくれてんだろうから、売れ残りを買わされたと知ればショックを受けるだろう。 ちょっと言い方を考える必要がある。 「それに、花言葉なんて、結構いい加減だぜ。  さっき出たイチイなんかは、悲哀とか憂愁の他に高尚なんてのもあるし。  ニリンソウはずっと離れない。の他に協力なんてあるから、いつでも頼ってきてね。って意味にもとれるし」 他の花にしても、花言葉は2~3個あって、そのうちの1個くらいはポジティブなものが含まれている。 どの花言葉を、どう受け取るかは、受け手次第だろう。 「さっき、お前は奥さんの笑顔を大輪のひまわりみたいなんて言ってたけど。  あれの花言葉、偽りの愛だってさ。  心当たり、あるか?」 「ねーよ」 「あと、色とか数とか種類とかで全部違うみたいだし。気にしてもしょうがないだろ」 「それもそうか」 親友はまだ引っかかっているようだったが、一つ頷いて3杯目麦茶を飲んだ。 そうしておいて、再度、うなづく。 「それに、おばさんが、もしそういった花言葉を知っててやったとしても、気にしすぎる必要はないと思うぜ。  人も花も、移ろうものなんだから。時間が解決してくれるだろ」 窓の外から、少し涼しめの風が吹いた。 その日は、そのまま、くだらない話をして今度は僕が親友の家に遊びに行く約束をして別れた。 奥さんにもよろしくと言った。
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