第19回八木寅さん vol.28

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第19回八木寅さん vol.28

 最初の作品を読んで「あ、この方に俺は紹介の許可のDMを送るんだろうな」と感じたのが八木寅さんであった。八木寅さんの作品で私が最初に読んだのは『玉ねぎ禁止之事』だが、見事に内容とマッチした簡潔な文章によって、私にその世界観を鮮やかに想像させる手腕に圧倒された(厳密に言えば、八木寅さんの作品で私が最初に読んだのは『忘れてた』である)。  八木寅さんはご自身もおっしゃるように様々な文体を試しているが、そのうちのひとつである余計なことを加えない文章は実に気持ちのいいものである。おそらく主語の配置が絶妙で、修飾語の並べ方も優れているように思った。そしてそれらを彩る付属語の選択も自然なのが、流れるように読まれる大きな要因だと思う。  基本の情報を提示するだけで、あとは読者なりの経験の蓄積をもってして頭の中でイメージを作って読むという流れを考えれば、作品によっては極限まで表現を削った方がむしろ豊かであると、八木寅さんの作品は教えてくれる。あとは並べ方さえ間違えなければいい。  ベートーヴェンがなぜここまで世界中で愛されているかというと、音の配置とリズムが完璧だからである。「これしかない」という音をつなげていくとベートーヴェンの音楽になる。それはそれはロマン派以降の作曲家は困ったであろう。楽聖のマネはできないのだから。  ベートーヴェンは実に穏やかな人であったが、譜と向き合うときだけ激しさの(かたまり)になった。一方、八木寅さんは作品で伝えたいことが明確で、実は熱い人である。やはり共通項があったのである。  八木寅さんのいくつかの作品に、神がかった文節や文の配列を見て取って、一瞬脳裏にベートーヴェンが浮かんだときは、少し悔しかった。 八木寅さん https://estar.jp/users/167002930
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