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「お、お手洗い、ど、どこですか?」
「ああ、廊下を真っ直ぐ行って、左だよ」
またこくりと頭を下げて、僕はトイレに急いだ。生まれてこの方、カラオケボックスなんてものに縁がないのだが、学費を払うためには急いでバイト先を探し出す必要があった。どこでも、どんな仕事でもいい。とにかく合格することが、僕の急務だった。
「やばいっすね、あの子」
トイレから出てきた僕は、廊下で話す店員たちの声を聞いた。気まずくなって、廊下で身を潜める。話しぶりから、さっきの店長と学生のバイト店員のようだ。
「うーん、人手は足らないんだけどねえ」
「えっ、あんな見るからに使えなさそうな子、採るんすか?」
「いや、さすがに。だって会話にならないんだもん」
「よかった~、俺あの子が入ってきたら、たぶん辞めちゃいますよ」
くたびれたような掠れ笑い。僕は自分が話のネタにされているのを知って、2人が去るまでカラオケの廊下に立ち尽くした。羞恥と自己嫌悪で、手足の震えが止まらなかった。
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