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「わかってるよ」
僕は一方的に電話を切って、ため息をついた。祖父に大きな病気が見つかって、治療費がかさんだ。さらに祖母は認知症になりかけており、施設に入れるかどうか両親は悩んでいる。そんな予定外の出費が重なった結果、僕がバイトをして学費を払わなければならなくなったのだ。これまで家族に甘えて育ってきた僕は、苛立ちがつのり、その時つい、母親に電話で怒鳴り声をあげてしまった。
「俺の学費は全部持ってくれるって言ったじゃねえか! あれは嘘だったのかよ!」
電話越しの疲れた声。母は明らかに動揺していた。
『ごめんね、しゅんくん。約束してたもんね、ごめんね』
僕は冷静になって、自分を見つめ返した。このままでは、家族にとってもお荷物にもなってしまう。バイトくらいなんだ。高校生だってやってるし、今は人手が足りない、すぐに採用されるはず。そう思って、僕なりに精一杯、勇気を振り絞って4つ応募した。それなのに、受かったのはゼロ。カラオケ店も、あの様子だと落ちたに決まってる。
お金がない。お金がなければ、僕は大学に残れない。もちろん友達は誰もいないし、サークルになんて入っていない。成績も中の下で、おまけに勉強もそんなに好きじゃない。それでも、僕が大学を辞めたくない理由は、「あの人」にもう会えなくなってしまうからだ。
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