後ろの理解者・ep5

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「…お客様?どうされました?」  考えあぐねてフリーズする私を、店員さんがいぶしがってる。違うの、私は1582円を持っていないわけじゃないの。たった82円が…いけないもっと惨めだわ。このままじゃ負ける。店員さんの可愛さが嫌味に思えてきた時…  …私は閃いた。その思考そして次の一言は、まさに天啓だった。これなら勝てる。誰も傷つかない。私は勝利を覚信して店員さんに対峙した。 「…これやめます。金牛宮ガム。金牛ってやっぱり怪しいもの」 「かしこまりました。ではお会計1450円に変更です」  …今日もやったわ私。手持ちで足りたばかりか、1円玉とか泡沫候補みたいな小銭を手にせずに済んだ。逆転完全勝利だ。  てか金牛宮ガム安すぎじゃない?本当に牛なの…?一体ツノが何本ある生物のエキスなんだか。  私は意気揚々と店を出る。誇らしい気持ちで歩くうち、カンカンカンカンカン‼︎という、けたたましい金属音が背後から耳をつんざいた。一体なんなの?    驚いて振り向くと…うわーダウ平均株価だ。物凄い勢いで私に突進してるから周囲はドン引きしてる。ああ…ごめんねダウ。勝利の余韻に浸って、ついあなたの存在を忘れた私を許して。  私はがっしとダウ平均株価を受けとめて、頬ずりする。同時に、ダウの心の声が私の脳髄に響いて来た。  …え、「金牛宮ガムをやめてボールギャグを残すのは何事か」って?  それはね、ダウ平均株価は一番大切だけれど、あの詩乃の綺麗な顔が陵辱に歪むのを優先すべき日が、稀にあるのよ。わかってダウ。ほら生肉はあるよ。私、血を滴らせて生肉を食むあなたが大好きなんだから。うふふふ。  ところであの金属音は?あっ、係留ポールの金具がリードにぶら下がってる。ねじ切って私を追ってきたのね。なんて健気なの。でも気にしなくていいわダウ平均株価。ねじ込まれたらパパに謝罪と賠償させるから。
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