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 * * * 「え、寝てる……」  風呂から出ると、コタツで猫が二匹寝ていた。  正確には、自分が飼っている猫のクロ。  もう一匹は、今日拾ってきた「猫」……もとい働いているドラッグストアでよく見かけるお客様。  秦野さんは名札をつけたまま店にやってくるので、いつの間にか顔と名前を覚えてしまった。  それほど年齢が離れているわけでもないのに、目の離せない危なっかしい「弟」みたいな人。  秦野さんが店にやってくると、いつも気になって様子を見ていた。  店の段ボールにぶつかったり、財布を忘れて店にやってきたり、レジ前で小銭をばら撒いたり。  自分から見て秦野さんは、世話を焼きたくなるとても可愛い人だった。  ただ気になっていても、今日まで自分から秦野さんに声をかけたことはなかった。  行きつけのゲイバーで秦野さんを見たとき、内心酷く動揺していた。  自分がゲイだとバレることに抵抗はなかった。そもそも周りに隠していない。  秦野さんがこっち側の人間なら「付き合いたい」と思った。  その瞬間、自分の隠れていた恋心に気づいて動揺した。  話を聞いているうち、秦野さんはゲイバーに間違えて入っただけで、ノンケだと分かった。  がっかりしなかったといえば嘘になる。  恋仲に発展する可能性がゼロだと分かっていた。でもゲイバーでお持ち帰りされそうな秦野さんを置いて帰れるほど、非情にはなれなかった。  雪が降る中、秦野さんを街中へ一人放っておけなかった。  多分、段ボールに捨て置かれた子猫を拾って帰り、世話をするのと同じ気持ち。その時点で邪な気持ちは決してなかったと思う。  秦野さんをベッドに運ぶまでの話だった。 「秦野さん。コタツで寝ると風邪ひいちゃいますよ」 「んん〜、やっ……抱っこして」 「ぅ……秦野、さん、もう」  そうやって寝ぼけて手を差し伸ばされると、気持ちがグラつく。恋心を抱いていた相手なら尚更だ。  雪が降る中、バーの前で言った言葉を裏切りたくなかった。 (そんなふうに油断していると、オオカミに食べられてしまいますよ)
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