トイレットペーパーの芯~定められた宿命~

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トイレットペーパーの芯~定められた宿命~

「毎度ありー」 宅配バイクに乗った若いお兄さんが去ってゆく。 俺の右手には500円の牛丼弁当が、左手には小銭が握られている。 20円。それが俺の残高だ。 「トホホ。明日からどうやって生活しよう・・・」 俺は途方に暮れていた。 一年前、世の中の景気悪化で、勤めていた会社が倒産。 会社都合の解雇ということで、多めにお金はもらったが、 それも家賃の支払い・食費・水道代などで底をつきた。 「フードイーツは初回クーポン利用で500円引き!」 牛丼の上には、そう書かれたクーポンが置かれている。 500円の弁当だから、500円割引で0円。 0円で飯が食えるということだ。ありがたい。 「さて、と。次はこれを売るか」 部屋の中に入り、押し入れから取り出したのは、100本の トイレットペーパーの芯。なんとこれが、500円で売れるのだ。 なんでも、子供の自由研究のために買う母親がいるとか。 たった500円。そう思うかもしれないが、はした金でも今の俺には ありがたい。捨てずにトイレットペーパーの芯を貯めていた甲斐があった。 「購入させてください!」 トイレットペーパーの芯はすぐに売れた。 早速段ボールに商品を詰めて送る。 綺麗に入れるのは、結構大変だ。 「悩み相談承ります」 次に開いたのは、キクナムという、500円でスキルを売買できる アプリ。ここでは、パソコンのスキル、文章、イラストなど自分の持っているスキルを活かしてお金を稼ぐことができる。 「お金がなくて困っています。どうすれば良いですか?」 本日の相談者は、50代の中年男性。 俺と同じで、お金がなかった。お金がない人が、お金がない人に アドバイスをするのもどうかと思ったが、一応話を聞くことにした。 「ギャンブルと女遊びのやりすぎで、お金がなくなりました。 どうすれば良いでしょうか?」 これは、自業自得。 そう思ったが、真剣に返事をすることにした。 「どちらも、ほどほどにしておいたほうが良いでしょう。 どうしてもお金がないというなら、フリマアプリでトイレットペーパーの芯を 売るという選択肢も、ありますよ」 「トイレットペーパーの芯」 俺は、一生懸命説明した。どうしようもなくて、しょうもないこと。 だけど、確実にお金を稼ぐことができる方法。 オッサンが同じようにトイレットペーパーの芯をかき集めて売る姿を 想像して悲しくなったが、オッサンが救われるなら、それで良い。 「ありがとうございます。早速、言われた通りにやってみます」 「頑張ってください。上手くやってくださいね」 何やら、漫画に出てくる組織の会話っぽいが、中身は フリマアプリでトイレットペーパーの芯を売る話である。 カッコつけて上手くやってください、なんて言ってみたが、 カッコつけるのは無理だ。 「お互い、苦しい状況のなかを何とか乗り切りましょう」 何かを決意するような口ぶりで、オッサンはそう言った。 ギャンブルと女遊びでお金を失った人から「お互い」と言われるのは なんとなく癪に障ったが、まあ、あまり気にしないことにした。 「頑張りましょう、お互いに」 メッセージBOXには、何十件ものメッセージが届いていた。 件名の多くは「お金がない」 今日も俺は、お金を稼ぐため、お金のない人にお金を稼ぐ 方法を伝え続ける。それがお金のない俺の宿命だ。
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