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プロローグ
「よいしょーっ、よいしょーっ」
緑豊かな田舎町に住む少女が一人。
今日も小さな牛小屋での乳搾りを進める少女。
栗色でふわふわな髪の毛を、時折牛に唐草と間違われて食べられることもある。
それを厄介に思いながらも「急がなきゃ」と額の汗をぬぐい、また「よいしょーっ」と牛の乳を搾る。
ところがこの少女、小さな問題が一つ。
「よいしょーっ、よいしょーっ」
「テン、どのくらいできたかね?」
「あ!コージーおじさま、見てください!」
「おお、今日は昨日よりたくさん搾れているようだね。この調子で頑張ってほしいところだけれど、どうやらもう牛が限界なようだ」
「あら、そうなのね。おじさまは本当に牛のことがよくわかるのね」
「そうさ、なんでもわかるのさ」
この牛小屋の管理をしているコージーはこの町一の長老。
だからこそなんでも知っているというのはあながち間違ってはいないのだけれど、実はこれが少女テンのもつ小さな問題と大きな関係があることを、テンは知らない。
「さあ、もうお家へお帰り。夕飯ももうすぐだろう」
「そうね。じゃあまた明日来るわね」
「いつもありがとう。また明日な、テン」
少女テンが牛小屋から出たのを見届け、コージーは深いため息をついた。
「おっと、いかんいかん。さあ、今日も最後の仕上げだな。もう一息、頑張ってくれよ」
コージーが牛の背に手を置き優しく撫でると、それに応えるように牛が「モー」と鳴いたのだった。
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