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場所は変わり、ここは町から少し離れた場所にある森。
きれいな川の水が今日もキラキラと輝き、青々とした木には多くの色とりどり果物が実っていた。
時々この水や果物を人間たちは取りに来る。
ただ、あまり頻繁には人間たちはこの森に来ない。
それは、この森に伝わる言い伝えがあるからだ。
現にこの森の水や果物を取りに行って帰ってきた人たちは、皆口をそろえて言うのだ。
『あの森にはバケモノが居る』
まさか、と笑いながら言う人々がまた森へ行けば、戻ってきたときの顔が青白いのを何度も見ている。
そしてテンの父もまた、その一人だった。
「テン、あの森へは決して行ってはいけないよ」
「どうして?」
「あの森にはバケモノが居るから。お前なんかが行けば、一口で食べられてしまう」
「一口で・・・」
テンが想像したのは、いつも母に読んでもらっている絵本のドラゴンだった。
大きな口にギラギラ光る尖った牙。
大きな体はしっぽの先まで硬いうろこで覆われている。
「大丈夫よ、お父様。あの森へは決して行かないわ」
テンは父としっかりと約束を交わし、いつものように平和に過ごしていこうと誓った。
ところが、テンはこの先とんでもない経験をすることを、この時はまだ知らなかったのだ。
自分が本当にそんな『恐ろしいバケモノ』に会うことを。
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