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そのバケモノに食べられてしまうかもしれない。
もちろんそんなのは絶対に嫌だった。
でも、綺麗な水もいろんな果物もこの目で少しだけ見てみたい気持ちはゼロではなかった。
「もう一度、お父様に聞いてみよう」
テンはベッドから飛び降り、リビングへ向かった。
ただ、そのリビングへ入ろうとした時、扉越しに父と母の会話が聞こえてきた。
丁度先ほどのその話をしている最中らしかった。
「森に行くの?」
「いや、もちろん誰だって行きたくないはずさ。ただ、町長はどうやらその気持ちだけではないらしい」
町長、と言えばこの町一番の物知りだった。
この町のこと以外に、森のことも多くのことを知っているはず。
その物知りが魅力的な森をあのまま放っておくのはもったいないと思うのは誰でも想像できた。
「バケモノが居るのは分かっているのに、やはりあの水や果物をこの町にも取り入れたいそうだ。そうすればこの町ももう少し栄え、他の町からの来訪なども増えるだろうって」
「それはそうかもしれないけれど・・・」
「みんな町長を説得しようと必死なんだ。危険を犯してまでこの町を栄えさせなくても、今まで通り平和なまま過ごせるじゃないかって。でももうこの町は年寄りが多い故に、いつ滅びるかもわからない、と」
だからこの町の皆があの森には行きたくないという声を集めれば、町長も諦めて、また新しい策を考えられるようになるかもしれないというのが父の考えだったのだ。
テンはどちらの気持ちもわかるが、多少森への興味が強かった。
もし、あの森が危なくない森だと分かれば、全て解決するのではないかと思ったからだ。
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