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ホテルを出ると、朱里は事務所までの夜道をひっそり歩いた。
鶯谷のホテル街はある一種の芸術だ、と朱里は思う。
初めて歩いたときこそ、このギラギラした雰囲気が恥ずかしくて仕方なくて、つい俯いて歩いたものだけれど、次第に街の空気に慣れてくると、その一種独特な世界観に魅了されずにはいられなかった。
ゴージャス感を演出したいがために作られた偽物の噴水のあるホテル(ちなみにお部屋もきれいなので朱里は気に入っている)や、アジアンテイストな銅像が置かれたジャングルのようなホテル、かと思えば入り口が本気でどこだからわからない陰に隠れたホテルなど、様々なホテルが軒を連ねている。
鶯谷では、皆が皆、自分とそのパートナーに夢中で、周りのことなど気にしない。
そのため自分の昼の立場を気にして、コソコソする必要はない。
普段は淫らなことでも、鶯谷にいる人々の目的はただ一つ。
自分の”性”を解き放つことだ。
だから朱里も、鶯谷では夜の女であることに胸を張って良いような気がしていた。
深夜2時過ぎ。
こんな時間に一人でホテル街を歩く女は、どう考えたって、いやらしい夜の女でしかありえないのだから。
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