第1章 1万円

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――その時。 不意にシャワーの音が止まった。 朱里はどきりとして、慌てて手を引っ込める。 シャワールームの扉が開いた。 バスタオルを手にして、身体を拭いているのは、先程初めて顔をあわせた、どこの誰ともわからない中年のおじさん。 心臓がせわしなく鼓動を早めて、朱里は慌てた。 ――私は、何をしようとしていたの……? 自分が取ろうとしていた行動を思い起こし、愕然とする。 盗もうとした? 人様の財布から、お金を盗ろうとしたのか? 私は、悪いことをしようとした。 罪を犯そうとしたんだ。 ああ……、私はどこまで落ちていくんだろう。
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