第1章 1万円

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そこで、朱里は反省した。 あからさまだったかもしれない。 夜のお仕事では、基本的に本番行為はNGである。 その共通認識を持ちつつも、いけるかいけないか、何かしらの形でジャブを打ってくるのが男という生き物。 それは言葉であったり、態度であったり、懇願であったり、今回のようにさも当たり前のように入れてこようとするタイプも案外多い。そこをうまくすり抜けるのが、夜の女の手腕である。 朱里もその点は心得ている。お客さんの機嫌を損なわず、焦らしながらも本番行為を諦めさせる技をしっかりと身につけていた。 しかし、今の対応はどうだろう。 あからさまな拒否は、お客さんに不快感を与えてしまうこともある。 ついウトウトしてしまったせいで。 お客さんは何も言わない。 本当に無口だ。 思えば、ベッドに入ってから一言も口を利いていないのではないか。 うつ伏せの朱里にお客さんの様子はわからない。 腰をガッチリと掴まれてしまえば、本番行為はいとも簡単に起こせる態勢。 ところがお客さんはそんな強引なことはせず、また太ももの愛撫へと戻っていく。 そして朱里は再びウトウトしてしまいながら、このお客さんは本番行為を強要する人ではないと感じていた。 それからは、お客さんのモノを入り口へ擦られはしたが、奥へ押し入ってくる気配はなかった。 こんなので良いのかな? そろそろ私がしてあげないと、いけないんじゃないかな? そんなことを思いつつも、気だるい身体を起こすことはできない。 こんなので、お客さんはイケるのかな? わからない。 ああ。眠いなあ。
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