第2章 洗脳

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何とか間に合った! 家からダッシュでオフィスへ駆け込むと、 「おはようございます!」 と扉の前で大きく挨拶する。そして朱里はさっと全体を見回した。 よかった、社長はまだ来ていない。 時刻は、8時25分。朝礼開始5分前。 班の上司へ慌てて挨拶をし、デスクへ向かい荷物を下ろすと、日報提出と朝礼準備を済ませた。 ちょうどそのとき、社長が出社した。 「おはよう」 胸を張り、大股でオフィスを闊歩する社長へ 「おはようございます!!」 と、社員全員が深く頭を下げ、勢いよく挨拶を返す。 そうして朝礼が始まった。 朝礼は、社歌の斉唱、理念の唱和から始まる。 その後、社長の説教が続き、最後に各人が今日の目標を叫び、士気が高まったところでお開きとなる。 昨今、営業不振の我が社において、朱里はこの朝礼ほど嫌なものはなかった。 社長の説教は、 なぜ私たちの営業成績が上がらないのか。 それは私たち社員の気持ちが足りていないから。 数字は嘘をつかない。 そして、私たち社員が如何に駄目人間であるか。 という話題に終始し、それを社員全員が真に受ける。 そうだ私たちはもっと努力しなければならない。 私たちの力が足りていないことが営業不振の最たる原因。 私たちこそ悪の根源。 もっと頑張らなければ! もっと必死に仕事をしなければ! そう思わずにはいられない空気感。 ご多分に漏れず、素直で責任感の強い朱里も、そのように強く洗脳され、自分を責めることで、なんとかモチベーションを維持するのだ。
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