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「二階堂夏樹と申します。新卒です。よろしくお願いします」
課長が新人を連れて事務所に戻ってきたのには気づいていた。
ちょうど管轄の市役所へ急ぎのメールを打っているところで、わたしは顔も上げずにその低い声だけを聞いていた。
ふーん、低くていい声してるな。ちょっとぼそぼそしてるけど。そんなことを頭の片隅で考えながら、送信ボタンをクリックする。
「……やばくない?公務員じゃなくて、芸能人になったほうがいいんじゃ」
「いや、そっちで食べていけるでしょ。こんな地味な仕事しなくたって」
「窓口部署だったらお客さんに騒がれて大変だろうし、ここでよかったかもね」
「民間だって顔採用でどこでも受かりそうなのに、どうしてまた」
女性職員たちの重なるひそひそ声が耳に入る。そんなに物凄いイケメンなの?よし、メールも無事に送れたし、その芸能人並みの顔を拝んでみるか──と、わたしはそこでようやく顔を上げた。
──え?
今日からうちの課に配属されたというその新入職員は、恐ろしく綺麗な顔をした男の子だった。
さらさらの黒髪に、きめ細やかな色白の肌。180センチ以上はありそうな長身。一重か奥二重の瞼に縁どられた目は涼しげで、鼻筋もすっと通っている。卵型の小さな顔の中身は驚くほどに整っていて、まさしく完璧なイケメンだ。
彼はさっきの挨拶以来、ニコリともせずに俯いていた。目を伏せたその表情がこれまた美しく、女性職員が口々にため息を漏らすのが聞こえる。
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