#17 運命と必然

5/17
9027人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
「平原、最近はどうだ?残業も減ったみたいだな」  宴会が始まって30分ほど経ったころ、ビールを()いで回っていると、桐島さんに声を掛けられた。まともに話すのは久しぶりだ。あの出張以来、仕事面での関わりはほとんどない。 「だいぶ楽になりました。もう少ししたら、あの大きい交付金の取りまとめ時期が来ますけど」 「絶対に締め切りを破るところがあるからな、しっかり催促しないとだめだぞ」 「桐島さん、去年はかなり催促していましたよね。うまくできるかな」 「大丈夫だ。二階堂にも手伝ってもらえよ」  ふっと笑った桐島さんと目が合ったので、作り笑顔で返す。なんとなく手持ち無沙汰になって髪を耳に掛けていると、「その浴衣、女性限定なのか?いいな」と柔らかな声が聞こえた。 「ありがとうございます。フロントで貸してもらって」 「二階堂にはなにか言われたか?あいつ、おまえのこと見てそわそわしてたぞ」 「そんな、まさか。着いてから一言も喋ってないですし」 「そうなのか?……ああ、相模が一緒だったからか。本当にわかりやすいな」  肩を震わせて本格的に笑い出した桐島さんについていけず、わたしの頭の上にはハテナマークがいくつも浮かぶ。 なにがそんなに面白いんですか──そう問い掛けようと口を開いたとき、肩にふわりとした感触があった。振り向くと、夏樹が仁王立ちをしてわたしを見下ろしている。 「な……二階堂くん、これ」 「着ててください。寒そうなんで」  肩に掛けられたのは、夏樹がいままで着ていたと思われる紺色の羽織だった。「寒そう?そんなことは……」「いいから着ててください」──有無を言わさない雰囲気に圧倒され、仕方なく頷く。 「……なんなんだろう、いったい」 「平原って、意外と男心がわかってないよな。俺はわかるけどな、二階堂の気持ち」  桐島さんが意味深な笑みを浮かべて、課長にお酌している夏樹を見つめる。羽織からは、ほんのりと甘い香りが漂ってくる──気がした。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!