ネモフィラの空

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あれからお互い無事に試験も終わり、後は結果待ちだったので会う約束をしていた。けれどいくら待っても彼は来なかった。何度電話しても繋がらない。そして、ようやくかかって来た携帯から聞こえた声は、彼の母親のものだった。 「『・・・・千華さん、落ち着いて聞いて。翔は、待ち合わせ場所にいく途中で事故に遭って・・・・さっき・・・・息を引き取りました』」 何を言われたのかわからなかった。あの人はいったい、何を言っているんだろう。彼が亡くなったなんて、きっと何かの間違いだ。持っていた携帯が地面に落ち、全身から力が抜けていくのを感じた。 信じたくない。嘘であってほしい。私はそう願いながら何とか病院に駆けつけた。けれど、たどり着いた先にいたのは泣き疲れた彼の両親と、霊安室の冷たいベッドの上に横たわる、彼の亡骸だった。 *** ネモフィラの丘一面に、真っ青な青空を鏡に映したような、スカイブルーの花の絨毯が広がっていた。その丘の一番高い場所に、ある一本の樹が立っている。そこに私たちがあの日植えた、ネモフィラの花が美しく咲いていた。 「・・・・翔ちゃん私ね、2人でネモフィラの種を一緒に植えた日、翔ちゃんと心から結婚したいって思ったんだよ。あなたとだったらきっと、どんなことがあっても笑顔で乗り越えられるって。なのに・・・・」 私には夢があった。彼が家を建てて、私が内装をデザインして、庭にはたくさんの花を植える。もちろんそこにはネモフィラの花も。 でもその願いは、永遠に叶えられなくなってしまった。涙が頬をつたう。 「・・・・いけない。ここに来たら泣かないって決めてたのに」 私は涙を拭った。そしてバッグからあるものを取り出して、晴れ渡った青空に掲げた。 「翔ちゃん見える? 私、インテリアデザイナーになったんだよ。翔ちゃんの建築士の資格もほら、ここにある。あなたはもう、私の手の届かない所に行ってしまったけれど、あなたが生きた証がここにちゃんとある。私の心の中で、ずっと生き続けてるよ」 この真っ青な空の色をしたネモフィラたちが、あなたへの想いを届けてくれる、道しるべになりますようにーーーー。
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