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私はある場所に立っていた。
目の前には、どこまでも続くスカイブルーの花畑が広がっている。
この場所は通称「ネモフィラの丘」と呼ばれていた。
「翔ちゃん、会いに来たよ。ねえ、見て。私たちが植えたネモフィラが、きれいに咲き誇ってる」
返事はない。当然だ。今ここにいるのは、私ひとりなのだからーーーー。
***
彼と初めてここに来たのは、去年の秋のこと。それぞれ建築士とインテリアデザイナーという夢に向かって試験を受けるため、願掛けに来たのだ。
「ねえ翔ちゃん、何でこの場所なの? 私にはただのお花畑に見えるんだけど・・・・」
てっきり、合格祈願で有名な神社に行くと思っていたのだ。けれどそれらしきものは一つもない。
それどころか、見渡す限り秋を代表する色とりどりの花が、競い合うように百花繚乱している。
「なあ千華(ちか)。お花畑、サイコーだろ? まるでお前の名前みたいじゃん」
「・・・・あ、ありがとう」
彼に無邪気な笑顔を向けられ、ストレートに褒められたから、私は照れて一瞬うつむいた。
「まあ普通は、願掛けってやっぱ神社だよな。でもさ、それだとなんか味気ないってゆーかさ。せっかく久しぶりに千華と会えたのに、神社で合格祈願して終わりって、さみしーだろ? それに俺、どうしても千華と一緒にやりたいことがあったんだよね」
「・・・・え? 私と一緒にやりたいこと?」
「そう。これだよ」
そう言って彼は、手に持っていた紙袋から何かを取り出した。それは中身が見えるタイプの、透明な袋に入った種のようなものだった。
「・・・・これ、何かの種?」
「そう。ネモフィラって言うんだ。真っ青なスカイブルーの花を咲かせる。花言葉は『成功』だってさ。だから俺の種と、千華の種を2人で一緒に植えたかったんだ。俺たちの未来が、必ず成功するように」
「・・・・翔ちゃん、大好きっっ!!」
私は思わず彼に抱きついた。こんなにロマンティックな贈り物をくれる彼は、きっとどこを探してもそうはいないだろう。
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