六、サクラの見解

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「あれっ? 何だ? これ」  僕は教室ではないどこかにいた。下は、なにかゴツゴツとして茶色い。  風が吹いている。外なのか? 上を見上げると青空が広がっていた。茶色くて太い柱のようなものが頭上に張り巡らされている。  立ち上がると、体が異常に軽いことに気づいた。  今なら、空も飛べそうだ。 『朔! どう?』  サクラの声が、いつもより大きく聞こえる。隣を見ると、サクラが微笑んでいた。  サクラとの距離感が、おかしい。  いや、距離感ていうか…… 「サクラが、大きくなった!?」  そうなのだ。今のサクラは僕と同じ背丈。  いつもは、爪楊枝(つまようじ)程の長さも無い、十手が今は小刀(こがたな)程の長さなのである。  サクラは、その場でくるりと一回転すると、僕に十手を突きつけた。 『真実を確かめるために、過去に舞い戻る……。題して、「バーチャルで、あの頃を振り返り!」』  どことなく、サクラは楽しそうだ。  ノリノリで、説明を始めた。 『今ここは、2年前の朔の中学校。ここにいる人たちに、私たちは見えないし、声も聞こえない。時間を巻き戻した訳じゃないからね。簡単に言えば、過去に撮られたビデオを再生している感じだよ』 「そんなことができるのか?」 『「さくらの妖精さん」ですから! 凄いでしょー?』  胸を張ったサクラが、少し腹立たしい。  そう言われて、周囲を見渡した。よく見るとここは桜の木の上のようだ。  どうしてこんな変な場所なんだ? と、サクラに聞くと、『そりゃあ、「の妖精さん」だからでしょ!』と言い返された。  なるほど。納得した。   『妖精モードも良いもんでしょ?』   サクラは羽を羽ばたかせて、宙に躍り出た。  よく見ると、僕の背中にも小さな羽が付いている。  試しに背中にぐっと力を入れると、体がふわりと浮き上がった。 「うわぁ! す、凄い!!」 『さあ、行こう!』  僕らは、まず職員室に向かった。  僕らがそこに到着すると、丁度、職員室の隣の相談室で、剣くんが担任と話していた。 「蒼間(あおま)、大丈夫か? 突然で大変だろう」 「仕方ありませんよ。父の転勤ですから」 「でもなぁ~。志望校も変更しなければならんし、知り合いもいない異郷(いきょう)の地は不安も大きいだろ? 先生も、力になれんかも知れんが、何でも頼れよ」 「はい。ありがとうございます」  剣くんが、部屋を出ると、剣くんの部活仲間で僕を傷つけた、一人が廊下に立っていた。彼は剣くんの視線に気がつくと、決まり悪い顔をした。 「悪いな。聞いちゃったよ……、引っ越すのか?」  彼の問いかけに、剣くんは小さく頷いて、彼を見据えた。 「北海道なんだ、引っ越し先。でも、朔には言わないでくれ」 「あぁ。分かったよ。じゃあな」  彼はそれだけ言うと、帰って行った。  なんだ。剣くんから、教えてもらったんじゃなくて、盗み聞きだったんだ。  でも、どうして……僕には言ってくれなかったんだろう。    剣くんも、彼が見えなくなってから、自転車庫に向かった。  ひどくゆっくりと、まるで一歩一歩を踏みしめるように。   「あぁー。朔に言わなくちゃなぁ」  空を見上げた剣くんが、ぼそっと呟く。  えっ……。僕にも、言おうとしてくれていたのかな?  僕は呆然として、剣くんの背中を見送った。
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