十一、新たな一歩

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十一、新たな一歩

 3学期が始まった。  心の準備ができていなくても、新学期はやってくる。  憂鬱な面持ちで校門をくぐった。  前を歩く集団の中に見覚えのある顔を見つけた。  『図書室のヌシ』 こと 朔也くんだ。  昨年の4月、僕は朔也くんを自分と同じ部類の人間だと思った。  それでいて、僕には決してなれない魅力を持っていることにも気づいた。  教室で文庫本を読みふけり、周りの音なんて一切、彼の耳には届いてなくて、凛とした雰囲気で、自分を持っている。  きっと、憧れだったんだと思う。  そして、今、朔也くんはこの1年で仲良くなったクラスメートと、楽しそうに笑っていて、羨ましい。  地面を見つめて、昇降口へ進む。  朔也くんの背中が近づいてきた。  今だ! と思い、勇気を振り絞った。 「ぉ、おはよう」  口から出たのは、震える、か細い声。  恥ずかしくて、朔也くんの顔が見られない。  朔也くんが振り向いたのを感じた。  一瞬が永遠に感じた。 「おはよう!」  顔を上げると、朔也くんが太陽みたいな笑顔を浮かべていた。  朔也くんは僕を彼の友人に紹介してくれた。彼らは僕に軽く自己紹介をしてくれた。  僕も辿辿(たどたど)しく自己紹介をした。  僕が話している間、彼らは僕のことをちゃんと見てくれた。そして、「もっと早くに声を掛ければ良かった~」と言ってくれた。  今年度は、あと少しだけど来年も同じクラスになれたら良いねって話した。  その日から彼らとお弁当を食べた。  今までに無い、充実した1日であった。
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