12人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
十一、新たな一歩
3学期が始まった。
心の準備ができていなくても、新学期はやってくる。
憂鬱な面持ちで校門をくぐった。
前を歩く集団の中に見覚えのある顔を見つけた。
『図書室のヌシ』 こと 朔也くんだ。
昨年の4月、僕は朔也くんを自分と同じ部類の人間だと思った。
それでいて、僕には決してなれない魅力を持っていることにも気づいた。
教室で文庫本を読みふけり、周りの音なんて一切、彼の耳には届いてなくて、凛とした雰囲気で、自分を持っている。
きっと、憧れだったんだと思う。
そして、今、朔也くんはこの1年で仲良くなったクラスメートと、楽しそうに笑っていて、羨ましい。
地面を見つめて、昇降口へ進む。
朔也くんの背中が近づいてきた。
今だ! と思い、勇気を振り絞った。
「ぉ、おはよう」
口から出たのは、震える、か細い声。
恥ずかしくて、朔也くんの顔が見られない。
朔也くんが振り向いたのを感じた。
一瞬が永遠に感じた。
「おはよう!」
顔を上げると、朔也くんが太陽みたいな笑顔を浮かべていた。
朔也くんは僕を彼の友人に紹介してくれた。彼らは僕に軽く自己紹介をしてくれた。
僕も辿辿しく自己紹介をした。
僕が話している間、彼らは僕のことをちゃんと見てくれた。そして、「もっと早くに声を掛ければ良かった~」と言ってくれた。
今年度は、あと少しだけど来年も同じクラスになれたら良いねって話した。
その日から彼らとお弁当を食べた。
今までに無い、充実した1日であった。
最初のコメントを投稿しよう!