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俺の人生
10年後。
俺は16歳の高校生になった。
今や当初感じた身体の違和感や認識のギャップなどもほとんどない。
"さとるの人生"にはすっかり慣れた。
いや、少し違う。
俺の人生はもう、『さとる』だ。
いつ間にか前の名前は忘れてしまった。
しかし、根っこが変わったわけではない。
新しく充実した人生を送るために魂を売ったはずが、その点に関しては"何も"変わっていなかったのである。
高校の勉強からは難易度が上がるし、
ぼけっとしながら優等生になるのは至難の業だ。
成績は中の下。
そして肝心の将来やりたい事も見つかってない。
ただの現実逃避で10年も過ごしてしまった。
新しい身体を探そうかとも思ったが、結局人間の本質は変わらない。
やり直すことに意味なんてないのだ。
それを痛感しただけの10年。
そんなこんなで物思いに耽りながら、漕いでいけば良いはずの自転車を押して下校していると女性が後ろから声をかけてきた。
「さとるくん!」
あけみだ。
成長過程を見守るのが当初の楽しみだったが、10年の歳月とは恐ろしいもので、いつのまにか常に隣に居てくれる彼女に安らぎを感じ、恋人になっていた。
「もう!私今日日直で遅くなるから少し待っててって言ったじゃん!」
ああ、そうか。
だから無意識で自転車を押していたのか。
「わ、悪い…」
「さとるくんって昔からそうだけどいつも"遠い目"してるよね。最近は特にわかりやすいし」
バレバレか…。
まぁこの孤独を感じ取ってくれる理解者がいるってことが嬉しいし、惹かれる部分だったのだろう。
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