6人が本棚に入れています
本棚に追加
『さとる』君の家は賃貸のアパートだった。しかも"母子家庭"である。
兄弟もいない。
そう考えると唯一の家族を失いかけたこの母親には正直同情した。
復活したはいえ、人格が"俺"になっていることに罪悪感すら覚えた。
人生のリスタートに胸を躍らせていた自分を後悔したくなった。
だが、ネガティブは"前の俺"の悪い癖だ。
俺は今、『さとる』なんだ。
「あの、お母さん。ごめん、俺、前の記憶がないんだ…。ホントになにもわからなくて…」
思い切った。
思い切って"27歳のスタンス"の言葉をぶちまけた。
母親は予想通りの瞳孔の開きっぷり。
だが、すぐに柔らかい表情になって言った。
「…いいのよ。生きていてくれればそれで。まだ子供なんだし、いくらでもやり直せるわ」
なんて出来た女だ…。
6歳のガキは感心した。
母親は俺を快く受け入れてくれ、驚くほど早く溶け込んだ。
時折り驚いた表情は見せるものの、逆に不思議なくらいに受け止めてくれる。
リハビリという体でさとるの情報をインプットしていくうちに、あっという間に2週間の時が流れた。
最初のコメントを投稿しよう!