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2.認可状とVHS
アダムさんが二人のうちに上がる。サアヤは先回りして脱ぎ散らした衣服をまとめてソファに置くと、上からタオルケットを被せた。アルマは大人が部屋にいることに安心していた。薄暗い電灯が気にならないほどに。
――申請を出しておくから。認可状は明後日には持って来られるよ。
アダムさんはコップに注がれた水をコクコクと喉鳴らして美味そうに飲んだ。
青色の硝子コップに、冷蔵庫で冷やされた水道の水が入れられている。
――水が一番だ。人間の体は殆ど水なんだからね。でもね。
アダムさんはコップに指を突っ込んでクルリと回転させる。
クゥルリ。クルゥリ。クゥルリ。クルゥリ。右に、左に、水流ができて部屋も姉弟も飲み込んでしまうまで、クゥルリ、クルゥリ、クゥルリ、クルゥリ。
サアヤは両手の人差し指を回転させて部屋の薄暗いオレンジ色をかき回した。
アルマは口笛を吹いてクルクル回った。裸に羽織った麻のシャツが楽しそうに踊る。
――お茶を出すことも覚えるといい。マーケットでお茶の葉を買うんだ。ポットでお湯を沸かして、お茶を煮出してから冷やしておくんだよ。水よりも美味しい。それに、お客に出すにもサマになる。
――はい。
サアヤは恥ずかしそうに爪を噛んだ。グっと、白い跡になるまで。その跡をみて思い出すつもりで。
――あのう、認可状って?
アルマが訊ねた。サアヤはしっと奥の六畳間にいるように耳打ちする。ダイニングでお客の応対をするのは姉の私なのだと、まぶたに力を込めて。
アルマはダイニングから追い出されて六畳間のソファに潜り込んだ。姉が嫌がるだろうと思ったのに、サアヤは相手にもしてくれない。タオルケットを鼻息で吹き飛ばせないほど、姉の背中は遠かった。
――君たちのお父さんは、ビデオのテープをたくさん持っているね。
――はい。テレビで映画があると必ず録画するんです。お店で買ったものはひとつもないの。ケチなんです、父さん。お金は結構稼いでいるらしいのに、なんたって宝石商なんですから。
サアヤは耳のトパーズを自慢に首をかしげた。アダムさんはニッコリと微笑んでサアヤの耳を褒めた。
――いいかな。
ビデオのコレクションをみたいと、アダムさんは椅子から立つ。六畳間に置かれた大きな書棚に、ギッシリとVHSテープのお腹。黒いマジックでタイトルが書かれている。写植のような正確な字だった。
――明後日から、この部屋で上映会をするといい。入場料をとってね、その認可状だ。お金がないんじゃ暮らしていけないよ。お金を稼がせてあげる。しっかりおやり。
アダムさんはVHSの海から一本、指で巨大魚を釣り上げる。「老人と海」
――いい映画だ。
目を細めて、アダムさんは言った。
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