4.映画とともに過ぎていった

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4.映画とともに過ぎていった

 サアヤとアルマの映画屋さんは初日から大繁盛で、二人は部屋の中をコマネズミになる。オルゴールのネジを回すように、姉と弟は一日の全てを映画とともに過ごした。 ――サアヤちゃん、トイレは女専用にできない? ――そうします。 ――なんだって、なんてこった。 ――男どもは管理人室の使いなよ。 ――アダムには会えないんだ、滞納してるから。 ――インディージョーンズ役はトム・セレックだったかもしれないんだぜ。 ――誰?  ――ほら、「スリーメン&ベビー」のちょび髭の俳優。 ――へー、そっちも良かったかもね。  サアヤは忙しく台所でお茶を沸かして、フライパンを振るう。アルマはウェイターになりきって、注文を訊いて回っては、そんなのいいからおばちゃんの膝で映画みようと誘われて照れた。  ざぶとんを持参してくれる人、卵や野菜を分けてくれる人、お客は親切な大人たちばかりだった。  映画の講釈も、青春の思い出話も、窓から入る風に浚われていく。 ――このシーン、ダスティン・ホフマンのアドリブなんだ、あのグラス壁に叩きつけて割るの、だからメリルのあれは素の反応なんだよ、演技を越えたリアルってやつだ。 ――「グーニーズ」の缶バッヂ、息子に買ってやったよ。あいつ、今もまだ持っているかな。  部屋の小さなテレビに、VHSから再生される映画でも、町の映画館と変わらない。スクリーンは人の数だけ、映写機は絶えることのないオルゴールとなって鳴り続ける。 ――オードリーはいい女だ。 ――ロバート・レッドフォードとなら浮気しても旦那許してくれるかね。 ――「スリーメン&ベビー」ったら、心霊騒ぎで有名だな。 ――あれは看板が映りこんでいるのよ。ちょっとサアヤちゃん、明日の夕方頃リクエストいいかしら? ――はーい、どうぞ、その棚にあるのなら、どれでも。 ――じゃ、「バベットの晩餐会」お願いしようかな。  入場料と、お茶とサアヤの作るちょっとした料理のお代で、家賃は数日で稼ぎだされ、二人の手元には父さんが置いて行った以上の額が貯まった。  銅貨をお手玉にして、アルマが歌い踊る。  サアヤは止めもせず、一緒にやった。  銅貨が薄暗い部屋の中でキラキラと映画色に輝きをまき散らす。  赤いサルビアは蜜の濃度を濃くし、台所に山となったジャガイモの皮は人知れず蛇のようにとぐろを巻いた。   ――やぁ、二人とも、ご機嫌じゃないか。  銅貨の踊りが止まる、アルマが受け止め損ねた一枚が、床でチャリンと鳴った。二人の父さんが帰って来た。
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