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1 大食いのチラシ
今俺は、博打のような賭けに出ようとしている。
大食いの賞金、5000円がどうしても欲しかった。
最近よく会って話してるし、友達の関係であるとは思っている。だから、贄の就職祝いをひとつでも渡したいなと思った。ただ、手持ちの金があまりない。かといって、都合のいいバイトもないし、受験勉強でそれどころじゃない。
そこで大抵の場合、20、30分以内で完食しなければならない大食いがいいのではないか、と思い始めた。
大食いにはかなりの自信がある。野球部にいたころは練習後に3合近く食べていたこともあるし、一日が練習か食事――おまけに――勉強だった。今はさすがにそこまで食べないが、そんじょそこらの高校生には負けるはずがない。胃自体丈夫だし、嫌いな物もほとんどない。挑戦する資格は十二分にある。
「ねぇ、どうしたのー? さっきから黙り込んで。何か考えごと?」
カウンター席の隣に座っている贄が覗き込んでくる。
「べつに、なんでもねえよ」
少し伸びてしまった「特盛ラーメンカップ」を勢いよく口に運ぶ。照れ臭くて言えるわけがない。
「味方くんさぁ……嘘ついてるね☆」
「んぐっ」
むせた。喉に落ちかけた麺が、鼻に行きかけるぐらい盛大に。贄が渡してきたポケットティッシュで鼻をかんだ。
「大丈夫~? 一度にたくさん吸っちゃ危ないよ」
背中を擦ってくれる。おかげで落ち着いてきた。
「悪いな。でも、なんで俺が嘘ついているってわかった?」
「あんまり言いたくなかったんだけど、味方くんってさぁ、嘘をつくと語尾が若干高くなるんだよねぇ~」
親にも言われたことない衝撃的な事実。俺って嘘がわかりやすい奴だったのか……。
「ええ? マジか、それ」
「マジだよ。最近、わかったんだけどね♪ で、何を考えてたの?」
ここは正直に言うわけにいかない。語尾に意識を置きながら説明した。
「母親の誕生日が近いんだよ。それで、5000円ぐらいありゃ、それなりに見栄えのいいやつが買えるよなーって」
「あら~、この歳で親孝行だなんて、私感激しちゃう」
贄は目にハンカチを当て、涙を拭く仕草をする。
「俺は真面目に言ってんだ」
「あはは、ごめんごめん。男の子の同級生でそういう子は珍しかったから、本当かなって」
「まあいい。貯金もそんなにないから、ひとつ案を思いついたんだ」
「うんうん、なになに?」
「このチラシを見てくれ」
新聞の広告に入って来たチラシを贄に見せる。
「『来たれ挑戦者! 来たれ無限の胃袋! ステーキ1.5キログラム+ライス2.5合を20分以内に食べたら、5000円!!!』……何これ、ずいぶん気前がいい店があるんだね!!」
「やるしかねぇだろと」
「いいねー。今の味方くん。精悍な顔してるよ! それでいつ行くの?」
「今週の土曜は半ドン――午前中のみの授業――だろ? 終わったら即行だな」
「ねえねえ、私もついて行ってもいい!?」
「いいけど、まさか贄もやるのか?」
「ん~~~気分次第かな♪」
贄の口元からよだれが滲み出ている。答えはすでに出ているってことだな。わかりやすいやっちゃな。
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