お金で愛は買えますか?

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東郷(とうご)はデスクの隙間から後輩と共に部長に頭を下げる遼太(りょうた)を見て辟易していた。  俺は部下のミスで頭を下げるなんて何の評価にも繋がらない非効率的な事まっぴらごめんだ。だから俺はどんなに多忙でも部下を持たない。そもそもこの会社の仕事は個々で顧客の要望をこなしていく。たとえ他の仕事を手伝ったからと、感謝はされるもののインセンティブが貰える訳ではない。そんな感謝の言葉なんて全くの無意味だ。 仕事を終えオフィスを出ると夕日がビルの窓に反射し東郷の顔を照らした。眩しさのあまり手をかざし遮り歩いていると後ろから肩を叩かれ振り向いた。 「お金を恵んでもらえないじゃろうか」 目の前にいたのはズタぼろの布を身に纏った老人だった。何日も風呂に入っていないのか顔は黒く煤汚れ、濡れた雑巾のような悪臭に俺は思わず顔をしかめ後退りし言う。 「いやあんたみたいな奴に渡す金なんて一円もねえよ」 そう言い放つと踵を返しその場を離れた。 俺はアパートに着くと背負っていた鞄を下ろし部屋着に着替える。ワンルームの真ん中に置かれた小さな卓上テーブルの前に座り鞄からパソコンを取り出したその時、パラリと何かが落ちたのが見えた。 それを手に取ると一枚の宝くじだった。 何でこんなところに? 疑問が一瞬浮かび上がるが過去に買ったやつが一枚だけ入っていたのかと自己解釈すると、その宝くじを机の上に置き仕事を始める。明日の会議で使う書類の作成をしなければならなかった。てきぱきと作業を進め、ものの一時間で終わらせると集中力が切れたのか腹がギュルルルと豪快になった。 飯にするかぁ 冷蔵庫の中からコンビニで買ったつまみとビールを取り出した。 スマホでお笑い芸人の動画を見ながらケタケタと笑い「お前本当バカだな」とスマホに突っ込みをいれビールをゴクリと飲み干した。 * 「さぶッ」 身震いしながらテーブルに伏せていた体を起こした。 俺はいつの間にか寝ていたらしい。 気づくと時刻は深夜を回っていた。寝惚け眼に頬を掻くとハラリと何か落ちた。 一瞬何か分からなかったが直ぐにさっきの宝くじだと理解する。それを拾い上げ机の上に置き風呂に入ろうと立ち上がり向かおうと体を動かそうとした時、妙に宝くじが気になり俺は再び座るとパソコンを再び開き宝くじサイトを検索し始めた。なぜか俺の手は震えていた。そのせいでタイピングミスを数回繰り返す。 何焦ってるんだ俺。当たってるわけないのに。 何とかサイトにこじつけスクロールとクリックを繰り返し当選番号を表示する。 そしてその宝くじの番号を見た。 何度も繰り返し見た。 「嘘だろ……当たってやがる……」 しかも一等の十億が当たっていたのだ。今まで味わったことない震えが全身を覆う。宝くじを何度も見てか自分の頬を叩いてみる。 うん。痛い。これはまぎれもなく現実なんだ。 その晩俺は興奮して一睡も出来なかった。翌日会社を欠勤し銀行に向かい宝くじが当たったことを伝えた。すると別室に案内され今後の入金について説明を受けた。十億という金額は多額の為一度に準備が出来ない。その為に後日数回に分けて入金されると説明を受ける。そんな中、俺はやっぱりこれは夢の中ではないのかと疑って頬をつねりたい衝動に刈られた。 説明が終わるとその足で早速銀行に向かった。口座から一月分の生活費を残し残りの貯金を全額下ろした。その額三百万。勿論豪遊するためだ。現金を握り早く実感したかったのだ。 俺は現金の入った封筒を握りしめると改めて宝くじに当たった実感が沸いてくる。 不思議なもので大金を所有しているだけで通行する人々が皆下民のように感じる。 あぁなんて素晴らしいんだ。 軽快な足取りで路地を歩いていると後ろから弱々しい声が聞こえた。 「助けてください」 俺はその声の主を見て思わず舌打ちをした。 「またあんたかよ」 話しかけてきたのは昨日のホームレスだった。 「お願いします。お金が無いんです。お金を恵んで下さいませんか」 「あんたもしつこいな。ゴミ虫にやれるゴミは持ってない。その辺のゴミでも食ってろよ」 俺は踵を返しその場を離れようとしたとき「あんた無愛じゃな」と怒声が聞こえたが気にせずその場を去った。 その夜俺は遊びまくった。物欲、食欲、性欲全てをワガママに叶え金をばらまいた。 最高に至福の時間だった───
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