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ほどなくしてアパートにたどり着くと鍵穴に鍵を差し込みドアのぶを回し開けた。
ガチャンと激しい音共にドアノブから手が離れた。
「は?なんでチェーン掛かってんの」
ガチャガチャやっていると、奥から一人の大学生ぽい女と目が合うや否や大声で叫んだ。
「い、いやぁぁぁあ!な、なんで無愛の人がうちに来るの。何か奪いに来たんですか。警察呼びますよ」
「おいッ。待て。てかあんた誰だよ。ここ俺の部屋だろ」
「そんなはずありませんここはちゃんと私の部屋です。そこの表札ちゃんと見てください」
ドアの横のプレートを見た。
確かに違う。
「ごめ……」と言った時にはドアが閉まった後だった。
首をかしげつつもう一度アパートの外観、部屋の位置を再確認する。何度確認してもこの場所は俺の住んでいた部屋に間違いない。
ここは一体何処なんだ。
その考えが頭の中に浮かんだ瞬間胸の奥で隠していた黒い影の渦が大きくなっていく。
俺はいても立ってもいられなくなってその足で直ぐに会社に向かった。この考えを否定するために。
会社までは徒歩五分とかからない。
会社に着くといつもしているように正面玄関に社員証を出しかざした。
反応しない。
何度も試すが全く反応を示さない。冷たい汗が背中を伝っていくのを感じた。
これはいよいよおかしい。一体なんだよこれは……夢か?いや、この手に伝わる感触、匂い、音、全てが現実だと物語っている。だとしたら……
「どうかされました」
ドアの前で項垂れていると聞いたことある声が聞こえ俺は咄嗟に振り返る。
「遼太……」
俺はハグしてやりたい気持ちを抑え無言のまま遼太の腕を力強く掴み引き摺る。
「ちょっと今仕事中で……」
半強制に目の前の公園に連れて行くと握っていた腕を放した。
「あのどなたか存じませんが僕もう会社戻らなきゃいけないんですけど」
「やっぱりお前もなんだな……」
認めたくないが、これはもう疑いようがなかった。
俺は意を決して遼太に聞いた。
「異世界の存在って信じるか」
口をポカンと開けた遼太に事のあらましを教えた。
「なるほど。確かにお金と言う概念はここには存在しませんね。だとすると本当にあなたは異世界から来たんでしょうね」
こんなろくに知らない奴の話しをちゃんと信じてくれるとかどんだけ良い人間なんだよ。
「ところで無愛ってどういう意味だ」
遼太は顔を背け気まずそうに答える。
「無愛っていうのは愛が無くなった人の事を言うんだよ。そちらでいうお金が無くなったかな」
「それってどうやって分かるんだ」
「愛がある人は頭上のこの辺り」と言って遼太は自分の頭の上を指差した。
「ここに愛が数値化され表示されてるんだ。これが無くなると数値が表示されなくなってその人は無愛扱いになる」
「じゃその無愛の数値って誰が決めてるんだ」
「神様かな」
余りにも荒唐無稽な話しにそんな馬鹿なと思ったが現に奇妙な事が目の前で起きている。そんな中、神様とかいう馬鹿げた話しでも妙に説得力を感じた。
ここが俺のいた世界と別の世界だとして帰るにはどうしたら……いや待てよ。そんな事こいつに聞いたって分かるはずがない。だったら───
「あー、仮にだ。それが本当ならその数値が無くなった人間はどうやってまた数値を貯めればいいんだ」
「簡単ですよ。愛すればいいんですよ」
「と、言うと?もっと具体的に頼む」
「愛を持って人の為になることをするですね」
「それだけなのか」
「それだけです。そろそろ僕仕事があるのでこれで失礼します」
「あぁ。ありがとな」
人の為って奉仕活動ってことだよな。ゴミ拾いとかか……
とりあえずやってみるか。
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