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俺はこの後空腹と戦いながら手当たり次第に奉仕活動をした。ごみ拾い。清掃。公園のトイレ掃除もした。だが愛は一向に貯まらず時間ばかりが過ぎていく。喉の渇きは公園の水道水でどうにかなっても食べ物はどうすることも出来なかった。もう四日は何も口にしていない。そろそろ体力も限界を感じていた。
その時公園に居たカップルがゴミをゴミ箱の中に投げ入れたのが見えた。カップルがその場から立ち去ってから俺はゴミ箱に駆け寄るとさっき捨てられたゴミを拾い上げた。中には数本のポテトとハンバーガーの食べ残しがあった。俺は暫くそれを眺め思う。ゴミを回収している時に何度か食べ残しを見つけた時があったが俺は人としての理性が働いて食べる事をしなかった。
でもその理性意味あるのか。もうすでに俺の感覚はおかしくなっている。空腹を通り越し空腹が何か分からなくなっていた。
手に握られたハンバーガーを見る。
腹がの奥鳴き声をあげだ。まるで俺にそれを食べろと言わんばかりに泣き叫ぶ。そして俺はそれを食した。
俺はこの瞬間社会性を捨てた。
人間一度箍が外れるとそれまで理性が働いて出来なかったことでも平気で出来るようになる。
俺の清掃活動はいつしかゴミ漁りに変わっていき、見つけた食べ残しは人が見ていようが憚らず食した。
その日もゴミを漁っていると向こうからスーツを着た二人組がこちらに向かって歩いて来ていた。俺は気にせずゴミを漁っていると、その二人のうち一人がこっちに駆け寄って来る。
「どうも」
俺はゴミ箱の中から顔を上げそいつを見た。
「遼太……」
「あまり上手くいってないようですね」
…………
「よかったら話しませんか」
遼太は付き添っていた男に一声かけると公園のベンチに腰かけた。手招きをする遼太。
俺は、忘れてしまった感情の一部が一瞬涌き出た気がしたが直ぐに泡となって消えていく。
言われるがままにベンチに座る。
「大分お疲れですね」
…………
「奉仕活動してないのですか」
「やったさ……やったけどなぁ」
俺はうつ向いたま地面に転がってる空き缶に語りかけるように話した。
「愛なんてねえよ……俺頑張ったんだよ。何日も飯もろくに食わずに一生懸命頑張ったんだよ。でもなぁ……それでもなぁちっとも愛なんてもらえねぇんだよ。どいつもこいつも俺をゴミを見るような目で見てきて誰も手を差しのべようとしてくれない。それだったらもうゴミはゴミらしく生きるしかねぇだろ」
体が熱い。手が震える。そして頬に一筋の涙が溢れた。
俺にまだこんな感情が残っていたんだな。自分で自分の事を嘲笑った。
「それじゃ。用が無いなら俺は行く。食料探さねぇといけないからな」
ベンチから立ち上がりその場から去ろうとすると後ろから声をかけられた。
「ちゃんと他人を愛せましたか」
「愛だと?そんな赤の他人をどうやって愛せばいいんだよ。清掃活動やるのだって町が綺麗になったね。ありがとうってなるんだろ?」
「すみません。僕の伝え方が悪かったですね」
「愛すると言うのは無償の愛の事です。見返りを求めない。誰かの為にやりたい、してあげたい。そう思う事が愛なのです。先ほどの話を聞く限り貴方の活動はただの見返りを求めた作業にすぎないのです。それでは愛なんて貯まるはずもありません」
「この世界すべての事が愛で回っているのです。仕事も全て無償の愛なのです。そしてその愛が深ければ深いほどに皆からそれだけ深い愛がもらえるのです」
「じゃあ仕事してる奴らは何も報酬をもらってないのか」
「そうですよ」
「そんなバカな。それじゃ破綻する」
「どうしてですか」
「どうしてって……そりゃ……」
「愛があれば衣食住には困りません。それ以上に何を求めるのですか?必要なのですか?もし求めるのであればそれは欲望なのです。欲望はこの世界にとって悪でしかありません。欲望は歴史の中で常に災いを起こしてきた。欲望があるから争いが起きる。欲望があるから犯罪がおきる。欲望と愛は相反する感情。だから絶対にあってはいけない感情なのです。だから欲を持つ者は無愛者として駆除されるべきなのです」
捲し立てるように言われそれを俺はただの傍観者になって聞く事しかできなかった。
「すみません。ちょっと熱くなりすぎましたね」
そう言うと袖を捲り時計を見た。
「もうこんな時間ですか。僕これで失礼します」
遼太はベンチから立ち上がりその場を去っていく。
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