お金で愛は買えますか?

5/6
前へ
/6ページ
次へ
俺は財布を取り出すと中に入っていたお金を空めがけてばらまいた。札は花弁の如くヒラヒラと舞散る。 公園の散歩をしていた人たちが訝しげな目でこっちを見る。 そんなに俺の事が気持ち悪いかよ。 東郷は地面に落ちた札束を無造作に握り締めると息を荒々しく吐きながら散歩をしていた女性に近づいて言った。 「頼む。金やるから……だから……お願いだ愛をくれないか」 「なにこの紙。いやッ汚ならしい触らないで」 女は言い捨てるようにその場から逃げていった。 「どうしてだよ。なんで俺がこんな目にあわなきゃいけないんだよ」 歯軋りをたてその場を逃げるように去っていく女の後ろ姿を睨み付けた。そのとき、東郷は力尽きるようにその場で倒れた。 俺は腹を抱えるように横たわると胃を力一杯抑えた。空っぽの胃がペシャリと潰れた気がして張り付ついた喉の奥からヒューと空気が漏れる。仰向けになると恨みたくなるほどの青空が広がっていた。 そっと目を閉じた。 脳裏に浮かんだのは何故か昼食でよく食べてた牛丼だった。そう。あの安っぽい庶民の味が脳内で再生されていく。そのまま意識が薄れて消え去りそうになったとき「よかったらこれどうぞ」と聞いた事のある声が聞こえた気がして目を開くと白いビニール袋が目の前に置いてあった。 手を伸ばし中の物を取り出し見た。 ぎゅ……牛丼?…… 俺は蓋を開け箸を使う事も忘れて貪った。その牛丼は今まで食べたどんな牛丼より美味しかった。 「うめぇうめぇよ」 そのとき胸の奥が熱くなっているのを感じると頬に何かが伝っていくのを感じた。 俺は飯を掻き込みながら何度も言った。 「ありがとう。ありがとう。ありがとう」 すると涙でぼやけていた視界が真っ白になっていく。その光は暖かくて落ち着くそんな気がして ………………
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加