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「お疲れ様です」
機械音と共に自分の視界が一気に明るくなった。一瞬真っ白で何も見えなかったが目がなれてくると徐々に目の前が見え始める。
ここは……銀行……俺はどうして。
「記憶がまだ混乱してるようですが安心してください。直ぐに思い出しますよ」
目の前の銀行員が言うように記憶は直ぐに戻った。
俺は高額当選者が体験させられるシュミレーターを体験したとこだった。
「どうでしたか」
正直どうでしたかと聞かれてもなんとも答えようがなかった。シュミレーションの記憶は殆ど残っていない。
その後よく分からないまま手続きは終了し銀行を出ると夕焼けの灯りがビルに反射し眩しさに手を翳しながら進むと道路の端で踞っているホームレスが視界に入り俺は足を止めた。周りを見れば通りすがる人は皆気づかないふりをしたり、気づいてもまるでゴミを見るような目で見るだけで誰も助けようとしなかった。
俺は近くにある行きつけの牛丼屋に入り牛丼を買うと、ホームレスの側に牛丼を置き、そっとその場から去った。
帰路の途中川沿いの堤防を歩いていると夕日が川に反射し宝石がちりばめられているようにキラキラと水面を照らしていた。俺はそれを見て思う。
世界はこうあるべきなのだと。
皆が幸せな世界……
その時心の中に何かが灯った。それがまだ何かよく分からないが悪い気分はしなかった。
その後俺は十億円全てを募金した。
お金は無くなったがその代わり大切な物を貰った。それはまだ芽生えたばかりのとても小さな芽だった。
了
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