集合時間

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集合時間

* 「かなちゃんお金持った?」 起きたままグチャグチャだったベッドを整え、脱ぎ捨ててたパジャマを拾い先生は顔を上げた。 「なんで?」 「え、なんでって…旅行だし」 「先生も一緒なのに?」 「だってずっとべったりなわけじゃないでしょ?  別行動してる時にお金必要になったら困るよ」 「平気、1人にはならないし」 「や……そんな問題じゃない」 リビングに用意していた私のバッグを開ける先生。 「昨日買ったバッグ、早速もってくの」 「うん、可愛いね」 小ぶりな籠のショルダー。 バケツの形で可愛い。 「ナルミがね、ちょっと高いけど  革だから長く使えていいよって  ほら、紐のとこと蓋のとこ」 「浴衣にも使えそうだね」 「でしょ!今年の夏はこれスタメンなんだ~」 「で、かなちゃん」 「ん?」 「財布は?」 「だって財布入れたら財布しか入らないもん」 何その呆れた顔とため息 そそるんですけど 「ちょ…!何!」 「チューしたくなった!」 「待って今そんな話じゃ…!」チュッ 「ちゃんと財布もって…!」チュッ 「まだ時間あるよ?手短にしようよ~」 「や…」 「だって旅行いったら出来ないよ?」 同意したらしい。 抵抗していた先生の腕は私の背中に回り、エロキスかましてきた。 背中を撫でた手はサロペットの紐を落として、白いTシャツを引っ張り上げようと… 「……」 え、なんで急に止まるの? 「なんか蹴られてる…」 『わしのかなになにしとんじゃセンコー』 「あ、マダちゃんお帰り~」 『かな~だっこ~』 ベランダで遊んでたマダ太郎、ご帰還。 気候がよくなった最近は、マダ太郎はベランダがお気に入りだった。 でもたぶんお気に入りなのは気候だけじゃない。 お隣の美人なお姉さんが可愛い可愛いって撫でてくれるから。 マダが勝手にお邪魔してしまうから、隣との境目の隙間に先生が網を張ったけど、お姉さんはその網の隙間から指で撫でてくれる。 マダはその網にこれでもかってくらい顔を押し当てて隣を覗く。 たまたまお姉さんがいると撫でてもらえるし、人参くれたりする。 お隣さんからすると、動物園のウサギコーナー的な。 「さ、そろそろ行かないとね」 エロモードは潔く終了。 先生はキッチンからジップロックの小さい袋持ってきて、それに1万円札を入れ、私のカゴバッグの内ポケットに差し込んだ。 「今度小さいお財布買いに行こうね」 「100均でいいよ」 「はいはい」 「マダ!ほい人参!」 キャリーバッグに投げ入れると 『ヒャッホーーイ』 マダは簡単に飛び込む。 ガチャ 『あーー!また騙された!』 お約束。 先生がマダ入りのバッグと、おやつや飲み物を入れたトートバッグを持ち 『せめてかなが持ってや~』 私はコロコロ付きの遠征バッグを引っ張る。 「「いってきま~す」」 3人家族でマンションを出発した。 『え…ちょ待てや!ウソやろ!』 「美佳子さんお願いしま~す」 「ごめんな美佳子」 「全然!賢治くん喜んでたよ」 ワンワンワンワン! 「らんちゃんよろしくね~  マダ太郎だよ~」 『ギャーー!ワンコロ!』 マダは先生のご実家でお留守番。 「お父さん忘れ物ない?」 「美佳子、戸締まりちゃんとするんだぞ」 「らんのご飯も忘れないでね」 「わかってるって」 荷物を抱えて出てきたのはお父さんとお母さん。 「あらマダちゃ~ん」 『オカアサーン、ボクもつれてって~  ワンコロと留守番とかひどない?』 お父さんとお母さんが一緒に車に乗って出発。 「楽しみね~」 「どこに行くんだろうな」 「私動物いるとこ行きたい!」 「動物園?どうだろうね」 「お父さんは城に行きたいな〜」 「あ、僕も」 車の中で旅行にわくわく思いを馳せながら、集合場所の明稜野球部の駐車場が見えてきた。 集合時間にはまだ早いのに、駐車場にはもうみんなの姿があった。楽しみだったんだ。 「あら、美枝子さんたちももう来てる」 「よかった、監督寝坊せずに迎え行ったんだ」 お父さんとお母さんと監督 それに、涼太に後藤にみき、圭吾に隆二になおくん 監督の車の前で集合していた。 「栄江たちまだかな  カズんちに泊まるって言ってたけど」 車は駐車場の一番端に停まり 車を降りると 「はざーーーっす」」」」 抜けきれない野球部性質な挨拶。 「先生見て!ミュウツウ!」 すぐさま後藤が駆け寄る。 「え!うそ捕れたの?!」 流行のポケGO。 「栄江くんたちまだ?」 「もう来ると思う  さっきカズから連絡あったし」 「監督なにしてんの」 荷物に座ってなにやら真剣にスマホを覗き込んでる背中。 「まだポケモンボールが真っ直ぐ投げれないの」 そう言って、涼太は監督を鼻で笑う。 「バットで打ちなよ」 「それな」 「ノック的な」 「うっせえなお前ら!逃げられただろ!」 「え、レアいやついた?」 「コイキング」 「……」」 「あ、カズたち来た」 駐車場の入り口から入ってくる白い車はカズくんちの車。 運転席に見えるのはお母さん。 そしてその後ろから 大きな虹色のバスが ピピーーー バスを操る笛が鳴る。
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