『救いようのない』男

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 ――おれのような男を、『救いようのない』やつというんだろう。    まあ、聞いてくれよ坊様。とはいえ、おれは昔っから物事を説明するのが下手くそでなぁ。あんまりうまくはできねえかもしれんが、そこは勘弁してくんな。    おれの名前は元吉つって、江戸からちょいと離れた山の中にある小さな村の生まれだ。故郷には兄も姉も、弟もいたんだが、どういうわけだかおれだけ出来がよくなかった。  畑の草刈りでは十回に一回、鎌で草じゃなくて自分の足を切る。  祭りの手伝いをしようと大人たちから指示を受ければ、なぜか全然違うことをやらかしている。  収穫した野菜を数える仕事なんざやらしてみろ、数えるたんびに数が変わっちまうって有様よ。  よく村の連中には馬鹿にされた。他の兄弟とも比べられて「姉ちゃんはあんなにしっかりしているのに」「弟はもっと賢いのに」ってな。  できないことに対して「周りをよく見て、説明をちゃんと聞け」とも言われたが…おれだっていい加減にやっているつもりはなかった。むしろあれでも精一杯やっていたんだ。でもな、頑張ろうとすればするほど結果はてんで見当違いの失敗ばかりになっちまう。必死に原因を考えたがわからない。それが、周りを苛立たせていることがわかっていても、どうしても駄目だった。  ようは、要領が悪かったんだなぁ。勘も鈍かった。周りが言っていること、考えていることが理解できない。周りから見ればな、おれのやり方ってのはどうにもとろ臭くておかしなことをやっているようにしか見えなかったらしい。  本当に…おれはおれなりに考えてやってたんだぜ?  親兄弟すら家族であるおれのことにあからさまに呆れてみせた。直接口で言わなくても、そういう雰囲気、態度ってのはあるだろう。あれはこたえたなぁ。  なもんで、おれは焦る。焦るのに、やっぱり空回りばっかりで。聞こえてくるのは「あいつは駄目なやつだ」「あいつがいると仕事が遅くなる」ってな。  言い返したこともある。変に見える行動も、こういう理由でこんな風にしているんだと。  だがなぁ。しゃべっている内に舌が喉にはりついてうまく説明ができなくなってくる。どんどん言葉は尻すぼみになるわ、それで余計に頭の中は焦ってくるわ。  そんなもんで結局うまく伝えられた試しはない。ちゃんとした説明できないもんだから、周りからはどんどん誤解され、馬鹿にされる。  そのうち、説明することも諦めた。そしたらさらに周りは勝手におれのことを解釈して、否定して、責め立てる。  「あいつは救いようのない馬鹿者だ」  …てな。  なあ坊様。村の連中の言うことの方が、正しかったのか?  おれは、実際のところは村のやつらが言うように、ただいい加減なだけの、駄目な男だったのかなぁ。  ある日、庄屋さまがおれの家にやってきて、おれを町に奉公に出さないかとうちの親に切り出した。  どうやらおれは農家の暮らしが合わないようだ。一度町に出て、そこで身に合う仕事を見つけてはどうか、ってな。  思えばいい庄屋さまだったんだろう。おれの先を見てくれていたんだなぁ。とはいえ、当時のおれにそれを感謝するような余裕はなかった。まるで、肩の荷を下ろしたように安堵する、二親の顔ばかり眺めていたからな。  薄情、と言ってはくれるな坊様。小さな村だ、畑の収穫量も知れている。  おれみたいな役立たずをいつまでも抱えていられるほど、家は裕福じゃなかったのさ。
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