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いつの間にかたどり着いていたその部屋の扉を、静かに開けた。
くぐもっていた声が一気に音量を上げ、長い廊下にこだまする。
響いたのは、幼子たちの悲痛な叫び声。
「パパァッ、ママァッ……!」
布団に縋り付きながら、えぐえぐと泣きじゃくっている公太。
その濡れた頰に、草太が右手を振り下ろした。
冷たい音がして、小さな身体がぐらりと傾く。
胸倉を掴み、草太は弟を引き起こした。
「パパとママは、おそらのおほしさまになったんだ!」
「ちがうもんっ……」
「せんせいがいってただろ、そうだって!」
「ちがうもんーっ!」
「ないちゃだめなんだよぉ……っ」
もう一度、草太が公太の頬を打った。
そしてまた、もう一度。
自分もその頬に涙を伝わせながら。
歯を食いしばり、肩を震わせながら。
「公太、草太……!」
ふたりに駆け寄り、力いっぱい抱きしめた。
小さな身体の大きな震えが伝わってくる。
この子たちの悲しみが、流れ込んでくる。
「やめろ……もうやめろ!」
ああ、兄さん。
なんてことだろう。
この子たちは、ちゃんと理解しているよ。
あなたの〝死〟を。
お星様なんて綺麗事では済まないということを。
もう二度と会えないということを。
「泣いていい。君たちは、泣けばいいんだ!」
ふたりの腕が俺の背中に回され、四つの手がシャツを強く締め付ける。
「パパ、ママっ……!」
「なんでしんじゃったのぉっ……」
どうしてなんだ、兄さん。
まだ羽も開かないこの子たちを、どうして置いていくことができたんだ!
なんでもう少し。
あと少しだけでも、生きていてやれなかったんだ!
この子たちを抱きしめるために。
優しい言葉をかけてやるために。
涙を微笑みに変えるために。
生きていてやれなかったんだ!
あなたにとっての幸せが、両親と離れることであったように。
この子たちの幸せは、あなたの側にいること。
ただ、それだけだったのに。
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