ガラスのつばさ

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 いつの間にかたどり着いていたその部屋の扉を、静かに開けた。  くぐもっていた声が一気に音量を上げ、長い廊下にこだまする。  響いたのは、幼子たちの悲痛な叫び声。 「パパァッ、ママァッ……!」  布団に縋り付きながら、えぐえぐと泣きじゃくっている公太(こうた)。  その濡れた頰に、草太(そうた)が右手を振り下ろした。  冷たい音がして、小さな身体がぐらりと傾く。  胸倉を掴み、草太は弟を引き起こした。 「パパとママは、おそらのおほしさまになったんだ!」 「ちがうもんっ……」 「せんせいがいってただろ、そうだって!」 「ちがうもんーっ!」 「ないちゃだめなんだよぉ……っ」  もう一度、草太が公太の頬を打った。  そしてまた、もう一度。  自分もその頬に涙を伝わせながら。  歯を食いしばり、肩を震わせながら。 「公太、草太……!」  ふたりに駆け寄り、力いっぱい抱きしめた。  小さな身体の大きな震えが伝わってくる。  この子たちの悲しみが、流れ込んでくる。 「やめろ……もうやめろ!」  ああ、兄さん。  なんてことだろう。  この子たちは、ちゃんと理解しているよ。  あなたの〝死〟を。  お星様なんて綺麗事では済まないということを。  もう二度と会えないということを。 「泣いていい。君たちは、泣けばいいんだ!」  ふたりの腕が俺の背中に回され、四つの手がシャツを強く締め付ける。 「パパ、ママっ……!」 「なんでしんじゃったのぉっ……」  どうしてなんだ、兄さん。  まだ羽も開かないこの子たちを、どうして置いていくことができたんだ!  なんでもう少し。  あと少しだけでも、生きていてやれなかったんだ!  この子たちを抱きしめるために。  優しい言葉をかけてやるために。  涙を微笑みに変えるために。  生きていてやれなかったんだ!  あなたにとっての幸せが、両親と離れることであったように。  この子たちの幸せは、あなたの側にいること。  ただ、それだけだったのに。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加