51人が本棚に入れています
本棚に追加
泣き疲れ再び眠りに落ちた双子を寝かせ、俺は深く息を吸い、吐いた。
ふと気配を感じ振り向くと、眉を顰めた父が仁王立ちしていた。
安らかな寝息を立てる双子を一瞥し、跪いていた俺を視線で射抜く。
「何事だ」
感情の欠片も感じさせない、冷徹な言葉。
「父さん……」
いつからだろう、親子という関係に執着しなくなったのは。
求めても無駄なのだと、諦めるようになったのは。
そして、自分からも与えることがなくなったのは。
なんだったろう、その感情は。
「ようやく寝たか」
短い息が、父の鼻から吐き出てくる。
俺はゆっくりと立ち上がり、少しだけある身長の差を埋めるように彼を見下ろした。
「この子たちは、俺が引き取ります」
一瞬、父の目が見開かれた。
だがそれはすぐに、醜い嘲笑に満たされる。
「馬鹿を言え。お前は私の跡取り……」
「会社は辞めない。跡も継いでやる。それでいいだろう!」
父の胸倉を掴み、ぎりぎりと締め上げた。
低いうめき声と一緒に、高く甘い声が、俺の耳に届いた。
視界の端に、寝返りをうつ草太の姿が映る。
俺は、突き飛ばすように父を解放した。
しばらく蹲ったまま呼吸を整えていた父が、静かに言った。
「……お前の好きにしろ」
父はのろのろと立ち上がり、乱れた襟口を整えようともせず去っていった。
兄さん。
あなたの忘れ形見は、俺が育てます。
二度と、こんな哀しい思いをしなくてすむように。
これからのふたりの人生が、たくさんの愛で埋めつくされた日々であるように。
幸せだと、微笑むことができるように。
そして、いつか。
いつかその翼を、大きく広げることができるように――。
fin
最初のコメントを投稿しよう!