やじるし少女とヘンカン少年

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 人は皆平等で一人一人に価値がある。だからイジメはだめですよ、とかお互いを尊重しましょうねって言葉は耳にタコができるくらい聞いてきた。勉強と同じで、子どもに一応教えなくてはいけないことなんだろうなと思っていた。その価値の意味を身を持って知ることになったのは小学一年生の時だった。  僕は生まれつき自分以外の人や生き物の頭の上にぼんやりと黒い数字の羅列が浮かんで見えていた。具体的に言うと、ゲームのキャラクターに表示されるHPのようにその羅列はずっと頭の上に固定されていて、日によって数字が増えたり減ったりしていた。それが数字だと知ったのは五歳の時。その時は幼稚園で数字を覚えたばかりで嬉しくて両親の前で堂々とそれを読み上げた。父と母そして飼っていた猫の数字を。 「あたまの上にね、すうじがいっぱいあるの。サブロウタは5、5、8、0、0。パパとママはそれよりもおおいよ!」  頭の上に浮かんでいる数字のことを両親は全く信じてくれなかった。僕にしか見えてないことを知ってからは、なんだか見える数字がよくないものの様な気がして口に出さないようになった。そして、一年が経った小学一年のあの日、家の前で飼い猫のサブロウタが車に引かれて死んでしまった。父が慌てて庭まで運んでくれたが、頭の上の数字は消えそうなくらい薄れていた。4、4、1、9、0。前より減っていた。 「これから葬儀屋さんに電話するから、かわいそうだけどしばらくここにいてもらおうな」  こくりと頷いたが、出血はあまりなくほんとに死んでいるようには見えなかった。だから、泣きながら思わず触ってしまったのだ。すると、僕の指が触れた瞬間、サブロウタは塩をかけられたなめくじのようにしゅわっと溶けて消えてしまった。ひらひらとかわりに何かが落ちてくる。 「え? いや、なんで……」  父も僕も困惑していた。涙はひっこんでしまった。  後には生ごみを燃やしたような臭いと紙幣と小銭が散らばっていた。  四万四千百九十円。 「あっ」  まだ困惑し続ける頭で大事なことに気づいた。 「お父さん、これ頭の上の数字だよ。僕が見ていたのってお金のことだったんだ!」  大発見をしたという気持ちでいっぱいでその意味にまで頭が回らなかった。  父は僕を見ながら泣いていた。泣いているのを見たのはその時が初めてだった。驚いている僕をぎゅうっと力強く抱きしめた。 「なんで、幸多にこんな……つらいことを」  つらい?  改めて、お金を見る。四万四千百九十円。それが、僕が生まれてから今までずっと可愛がっていたサブロウタの価値だった。  この時に僕は初めて生物の価値を実感した。と同時に、そのあまりの低さに眩暈がしてその場で嘔吐してしまった。  その日から両親はよく喧嘩するようになった。母はなんとかして僕の力を使って金儲けをしようと考えていたが、その度に父が止めていた。いつのまにか母は僕をあてにして多額の借金を抱え込んでいた。ある日激昂した母は父を刺殺した。その時猫なで声で懇願されたが、僕は絶対に父には触らなかった。それが小学六年の時。  それからは父方の祖父に引き取られた。祖父は僕のことを何でも知っていた。見えることを他の人に話さないこと、むやみに生き物を殺さないことの二つを約束した。
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