やじるし少女とヘンカン少年

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 僕が価値として見えるのは動物だけではない。血が通っていなくても光合成で成長する植物も対象だった。逆に言えば無機物以外の価値がすべて見えるのだ。植物の場合死のカウントは僕が地面から引っこ抜くか、表示が消える前に触ることだった。だから学校行事での作物の収穫イベントは全て仮病をつかって欠席しなくてはいけなかった。  自分の特異体質がばれないためもあったが、そもそも一人一人の値段が分かることがより一層クラスメイトと話すことを億劫にさせた。そのまま僕は高校生になった。  中学の時と変わらず教室では授業で当てられた時や話しかけられた時以外は発言もせず、昼休みは誰も行かない裏庭の草むしりをしていた。用務員のおじさんもこの場所は給料の範囲外なのかいるところを見たことがない。雑草の価値は他の生き物に比べると微々たるものだがいい小遣い稼ぎにはなった。それに、周りも気にせず頭を空っぽにできるこの時間が僕は大好きだった。  この日は天気がよく、やわらかな日差しと暖かな風がとても心地よかった。少しうとうとしながらもいつものように草むしりをしていた。手のひらの中で雑草が硬貨へ変わる。完全に気が緩んでいた。 「す、ごーい」  心臓が口から飛び出すかと思った。声が聞こえるまで後ろに人がいることに全く気がつかなかった。今の見られたのだろうか。どうしよう、おじいちゃんと約束したのに。さっきまでの穏やかな眠気は跡形もなく消えていた。 「えっと、た、た、たまる、だったっけ」  後ろには金髪の女子が立っていた。目を誇張したメイクに両耳にいくつもピアスがついている。頭部の右側だけちょっとシュシュで結っているのはなんだか子どもっぽいなと思った。確か同じクラスの女子だ。 「……田川です」  緊張で声が裏返ってしまった。顔面に熱が集中して熱い。やっと返事してくれた、と女子は嬉しそうに笑った。 「そうそう田川! めっちゃおしいじゃん。私は同じクラスの八城しのぶ。田川も私の名前知らなかっただろうしお相子ってことで、許して」  第一印象は底抜けに明るい陽気な人、だった。よく笑ってよくしゃべる。 「さ、さっきの、他の人には黙っててもらえないかな」 「抜いた草が十円玉になるってやつ? こうみえて私目が超いいんだけど、あれ手品とかじゃないよね。つうか誰もいないとこでそんなことやるほうが意味わかんないし」  どううまく切り抜けようかと悩んでいると八城さんはあははっと笑った。 「大丈夫、大丈夫。言われなくても誰にも言うつもりなかったから。そのかわりっていうか、私も一緒にやってもいい?」 「い、一緒に?」  祖父以外と授業に関係ない話をするのもこんなに話しかけられるのも初めてだった。手に汗がにじむ。 「そう、草むしりってどっちかというと良いことじゃん。それでお金も稼げるなら一石二鳥! っていうか私、そもそもここに来たのってお金欲しくてなんだよね」  なぜ、お金がほしくてここに来るんだろう。ひょっとしてカツアゲとかするんだろうか。 「お金って、雑草ってせいぜい十円玉一枚くらいにしかならないから割に合わないよ。教室で友達と過ごした方がいいと思う」 「うーん、いいたいことは分かるんだけど、でも田川と一緒の方が楽しそうじゃん」  日差しで透ける金髪はとても綺麗で、ガラス玉のように瞳はキラキラしていて、小さいときに誕生日ケーキを見に行ったケーキ屋さんのような優しくて甘い香りがした。僕の脳内はとっくにキャパオーバーしていた。これからよろしくと差し出された手を握り返してしまった。
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