どんぐり代

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 俺の声に一瞬ビクリと身体を震わせた少年は、蛇口の手前で立ち止まるとおずおずとした様子でこちらを振り向き、そして怯えるような足取りでゆっくりと近づいてきた。  俺はそんな少年に無言で行き先だけ顎を動かして示すと、静かに歩き出す。そして、公園にある自販機の前で立ち止まった。 「何飲むんだ?」 「え?」  俺の言葉に、少年がポカンとした顔でこちらを見上げてきた。 「だから、何が飲みたいかって聞いてんだよ」 「……」  慣れないことをしているせいか、無意識に口調が荒くなる。少年はそんな俺の態度に怖がったのか、顔を伏せると指先をいじり出す。けれど言葉の意味は伝わったようで、チラチラと自販機と俺の顔を見比べていたかと思うと、その短い指先を上へと伸ばした。 「……どれかわかんねーよ」  俺はそんなことをぼやくと、財布から文字通りの全財産を取り出し、それを年季の入ったサビた自販機に突っ込む。  人の懐事情なんて一切知らない無機質な機械は、当たり前のようにそれを吸い込むと、代わりに俺の人生よりも豊富にある選択肢を光らせてくる。
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