どんぐり代

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「ほら、自分で選べよ……お前にはまだ、これこらからがあるんだからな」  柄にもなく説教臭い台詞を口にした俺は、少年の脇に手を入れるとそのまま自販機に向かって抱き上げた。驚くほど軽い身体はいとも簡単に持ち上がり、俺は思わず拍子抜けしてしまう。  その間に少年はキョロキョロと頭を動かすと、やっとお目当てのものを見つけたようで、短い腕をうんと伸ばして自販機のボタンを押した。 「ガキはほんとにコーラが好きだな」  呆れた口調で呟いた俺は、少年を降ろすと自販機の中からペットボトルと、もう使うことのないお釣を取り出した。 「ほら、この前のどんぐり代だ」  俺はそう言ってしゃがみ込んでペットボトルを手渡すと、そのついでに少年のズボンのポケットにお釣を突っ込む。  すると少年は「こっちはいらない」と生意気にもポケットから小銭を取り出そうとしてきたので、俺もいらねーよとすぐに言い返して立ち上がった。そして何も言わずに公園の出口に向かって歩き出す。 「マジで空っぽだな……」  ズボンのポケットから取り出した財布を見つめながら、俺は自嘲じみた声で呟く。  けれど不思議なもので、少年にジュースを奢って本物の無一文になった今の方が少し心が軽くなっていた。  きっとその分だけ、俺の未練も一つ減ったのだろう。
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