小さな少年

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 サボりか? と心の中でぼそりと呟いた時、つたない足取りでバケツを運んでいた少年が転んだ。そして予想通り、泣く。 「……」    セミの合唱にも負けない声でうるさく一人泣き続ける少年。これだからガキは嫌いだ。泣けばいつも誰かが手を差し出してくれるとでも思ってるのか?    苛立ちながらそんなことを考えたところで、ひどく惨めで小さなその背中が泣き止むことはない。 「……ちッ、めんどくせーな」  俺はベンチからのっそりと立ち上がると少年に近づく。 「おい……大丈夫か?」    声を掛けると少年は驚いたように肩をビクリと震わせて、俺の顔を見上げてきた。濡れた瞳がなんだかガラス玉みたいだな、と一瞬どうでもいいことが浮かぶ。  大丈夫か? と再び問えば、少年は泣き止んでコクリと頷いた。 「お前……学校には行かなくてもいいのか?」 「え?」  Tシャツの肩で涙を拭っていた少年は、俺の言葉にピタリと動きを止めると、そっと口を開いた。 「ママが……あんなとこ行かなくっていいって」  さっきまであれだけうるさく泣き喚いていたクセに、やたらとか細い声だった。その割に少年の口から飛び出した言葉がけっこう大胆で予想外の言葉だった為、俺は一瞬返答に困ってしまう。  まあ……子供の教育なんて人それぞれなんだろう。
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