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ああそうだ、と俺は強い口調で答えると、こんな状況から早く抜け出そうと思い少年に背を向けようとした。だが、相手の方が一足早く口を開く。
「おじさんはおしごと行かなくていいの?」
「……」
ガキとはいえ痛いところを突かれてしまい、俺は睨むように一瞬目を細めた。けれど屈託のない水晶のような小さな瞳にそんな威嚇は効果がなく、俺は諦めたようにため息を吐き出す。
「俺はもう仕事に行かなくていいんだよ」
子供相手に何をバカ正直に話しているんだと思いながらも俺はそんな言葉を口にした。するとまた予想外の返答が返ってくる。
「ふーん……じゃあおじさんは『えらい人』なの?」
「は?」
どういうことだよ、と眉間に皺を寄せれば、少年は真っ直ぐに俺のことを見上げたまま言葉を続ける。
「ママが言ってたの。えらい人はおしごとしなくてもいーんだって」
「……」
一体どんな教育を受けてんだこのガキは……。
呆れ返って呆然としていた俺は、これ以上話しても無駄だと思い今度こそ少年に背を向ける。
「ガキはそんなこと考えなくてもいいんだよ。……じゃあな」
そう言って一歩を踏み出した瞬間、ズボンの右足が何かに引っ張られた。見ると、何故か少年が掴んでいる。
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