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小さな優しさ
翌日も公園に行くと相も変わらず少年は一人砂場で遊んでいた。
別に学校に行くわけでも会社に行くわけでもないのに律儀なガキだなと思いながらベンチに座ってそんな光景を見ていると、少年がこちらに気づき近づいてきた。
「……何だよ」
昨日と同じようにじーっと俺の顔を見つめてくる少年。また喉が渇いたとかふざけたこと言うんじゃないだろうなと思っていると、少年はズボンのポケットから何かを取り出した。
見るとその小さな掌にはどんぐりがいくつかあった。
「これ……おじさんにあげる」
「は?」
唐突に少年の口から飛び出してきた言葉に俺は眉根を寄せた。
「こんなもん貰ってどーすりゃいいんだよ」
「どんぐりだから、食べれるよ」
事も無げにそんな言葉を口にした少年に、俺はさらに眉間の皺を深める。
「食べれるって……お前こんなもん食ってんのか?」
「うん。おなか空いたらどんぐり見つけてもってかえると、ママが料理してくれる」
「……」
そう言いながらも自分も腹が減っているのか、ぐぅと小さな音を鳴らした少年はお腹をさすっていた。
「俺はいらねーよ。それに腹減ってんならお前が持って帰れ」
そう言ったにも関わらず、少年は俺の左手に無理やりどんぐりを握らせてきた。だからいらねーって、と再び口にしようとした時、少年が俺の顔を見上げて笑う。
「おじさん、昨日おなかへってるって言ってたから」
屈託のない笑顔でそう言った少年は、じゃあねと短い右手をひらひらとさせると拙い足取りで公園の出口へと走っていく。
俺は呆然としたままその小さな背中を見ていたが、やがてその姿が見えなくなると、少年の代りに残されたどんぐりを見つめた。そして呆れてため息を吐き出す。
……これだからガキは嫌いだ。
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