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小さな少年
耳障りなほどセミの鳴き声が乱れる公園のベンチで、俺は一人座っていた。平日の昼時というのもあるのか、それともブランコと砂場と自販機しかない小さな公園のせいなのか、辺りには人っ子ひとり見当たらない。
完全に孤独だな、と思いながらシャツの袖で額の汗を拭うと脇の辺りからひどい臭いがした。それどころか白かったはずのシャツは、タバコも我慢しているはずなのに黄ばんだような色になっている。いや、タバコは我慢しているわけではなく、買えないだけか。
「……情けねーな」
炎天下の中、誰に言うわけでもなくぼそりと呟くと、俺はズボンの後ろポケットから財布を取り出した。もはや財布と名ばかりになったそれは、今ではただのレシートの掃き溜めだ。
年齢にも見合わない、ましてや大人一人が生きていくのにも見合わない心許ない資金は日に日に減っていく一方で、増えていくことはもう二度と無い。
この財布の中にほんの数ヶ月前までは数えるのも億劫になるほどの諭吉が入っていたなんて、誰も信じてはくれないだろう。
「もってあと5日か……」
数えなくても一目でわかる千円札数枚と、ジャラジャラと音だけやけに賑やかな小銭を見つめながら俺はため息混じりに呟く。
先週は電気とガスが止まり、昨日はついに水道が止まった。大家さんのお情けで今月末までは家から追い出されることはないが、来月からはそれさえも失う。
そうなれば残る選択肢は生にしがみについてホームレスになるか、それとも……
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