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女性は丁寧に墓に水をやり、花を交換して線香をたいた。
「あまり見られると恥ずかしいですね」
僕の痛い程の視線に、女性は困った笑みを返した。
「あぁ、すいません。 この墓場に自分以外の人を見たことがなかったもので」
「そうなんですか。 私も初めて来ましたが、静かなところですね」
上品に微笑む女性。その笑みに、何か暗いものを感じた。
「失礼ですが、そのお墓はどなたのもので……?」
「あぁ、弟です。 ちょうど一年前に亡くなりました」
昔を懐かしむように、彼女は目を細めた。
「良い子だったんですけど。 病弱でなければ、今頃きっと……」
「すみません、お辛いことを」
「いえいえ。 一年経って、ようやく落ち着いてきまして。 こうやってお墓参りにも来れたというわけです」
「失礼ですが、貴方一人で来られたのですか?」
家族の墓参りというと、他の家族や親戚などが一緒のことが多いが。
「えぇ、一人暮らしの大学生ですので。 実家に帰らずにこうして一人で来ました」
「なるほど」
女性は先程と同じ笑みを浮かべ、そして視線を正面に戻した後
「少し、お話をしてもいいですか? 私の推測で成り立っている話ですが」
「……どうぞ」
僕は少しその言い方に怪訝な顔をしながら、一方、聞きたい自分もいたので話を促した。
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