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「……実は、私の弟には彼女がいました」
「実は」
「はい、あの子が死んだ後に知ったのです。 しかも、まさかの付き合って一年。 まぁ、まだ結婚の話には早い年齢ですし」
「そうですか……」
「気になさることはありませんよ」
結婚にはまだ早い年齢。その弟に僕の姿を勝手に重ねてしまったのだろう。彼女も若くして死んでしまった。
「弟は病気持ちでした。 時々、発作を起こしては生きるか死ぬかの夜を何度も越えてきました。 だから、まぁ……体がかなり堪えていたんだとおもいます。 亡くなる一週間程前から弟は入院をしていました。 その時にはもう、かなり体が弱っていて、食事もロクにとれないくらいでした」
どうして、この人はここまで自分の身内のことを見ず知らずの男に話してくれるのだろう。しかも、仮説だとも言っておきながら。
「……弟が死ぬ前日ですね。 病室に行くと、ほぼ喋らなくなっていた弟がやけに饒舌に私に色々言ってきたのです。 話の殆どが自分の死んだ後の話でした。 なのに、あの子は特に怖がっているそぶりは全く見せないのです。 感情を上手く隠せる子ではないので、それが本心だと、そして彼は近々本当に死んでしまうのだろうと私は感じました」
女性は微笑み、弟の墓を優しく撫でた。
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