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「その時一番印象に残っているのが、『自分が死んだ後、一緒に彼岸花を埋めてくれ』でした」
「え、彼岸花を?」
青年は少し動揺しながら尋ねた。
だってそれは…… ── 。
青年はチラリと彼女の墓を見る。
「えぇ。 咲かせて欲しいのではなくて、埋めて欲しいと言ったんです」
女性は床に手を当てる。
「その言葉が、一番あの子が願っていたように思えました。 だから、私も可愛い弟の最後の頼みです。 理由は全くわかりませんでしたが、きちんと弟の骨とともに彼岸花を埋めて貰いました」
「そ、そうですか」
「はい。 でも、やはり姉として気になるものです」
女性は立ち上がる。
そして、僕に微笑みかけた。
「彼岸花の花言葉はご存じですか?」
「いいえ」
「強い毒を持つ花ですから死人花とか呼ばれてるそうですけど、『再開・思うはあなた一人・また会う日を楽しみに』など、ロマンチックな花言葉なんです」
「へぇ」
「でも、私はやはり分かりませんでした。 弟の葬儀の日に彼女さんが来ていたので、彼女がいることは知っていました。 でも……不思議ですよね」
「何がです?」
「花言葉の通りなら、死者が彼岸花の花言葉を宛にするなんて有り得ませんから。 どちらかというと、送る方の花言葉じゃないでしょうか」
「捉え方は色々ですから、弟さんが彼女さんとの来世での再開を望んでいたのかもしれませんよ」
「そうですね」
女性は僕に微笑む。
「でも一つだけ。 もっと奇妙なことが起こりました」
「それは……」
「その彼女さんが、弟の死んだ翌日に死んでいたのです。 耐えられなかったのでしょうか」
「……死因は?」
「分かりません。 私は彼女の事を何も知りませんでしたから。 その話を聞いたのも、数日後の親戚が集まった時にチラッと聞いただけでした」
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