花羽

3/5
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
歩く 歩き 歩き、歩いて 耳に呼吸の音を聞く。骨に血の音を聞く。 おれは、地に足をつけて 漂流している。 アスファルトに (わた)を出して、ひしゃげたかえるが 死んでいた。 何時 木々の間に入り込んだだろう? 腐食した葉の下の木の根。 濡れた苔の匂い。 根に取られた靴を脱ぐ。重たかった。 胸に氷を抱いている。何時も。 さびしさのときだけ、生命を感じるのは 何故なのだろう? だけど 胸には、奥の(なか)には、ふるえがいる。 あらげた息をしながら、ここにたどり着いた。 羽ばたきの 重なりの葉の間に ちらちらと光る午後のひかり。 あのひかりじゃない。ひかる目じゃない。 でも あのときは、ひとりじゃなかった。 君の眼を思いだす。 びいどろの玉の影のように 澄んでいて ねえ、と おれを愛した。 あのときが、ほんとうだったんだ。 おれのふるえは、まばたきに、情慾に、絶巓に達した。白い指さき。 だから ここに、君を埋めた。 さかなのように、つめたい肌だった。 おれには解る。 そうするように、君が望んだのだし、 こうして君は、おれをひとりじめにして あれからずっと ふたりきり。 満たされた。君が。おれが。 ああ なのに、ここからうごかなきゃいけない気がするんだ。 ふるえが おれをうごかす。 たましいも 腐るのだろうか? 肉のように。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!