引き分け

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引き分け

 十円。  蓋には確かにそう書かれていた。目を見開いた。じわじわとやってくる高揚感に飛び跳ねてガッツポーズを決めた。 「おっしゃおっしゃ!」  僕が走り回っているとおばさんは小さく拍手してくれた。 「はいはいおめでとう。それで何を買うの?」  その言葉は皮肉に聞こえた。あんまりはしゃぐなよと言われている気分だった。よく考えれば勝敗は引き分けだ。十円使って十円返ってきただけだ。なぜこんなにはしゃいでいるのだろうと自分が恥ずかしくなった。目標の三○○円まで何も進展していない。こんなんじゃだめだと活を入れる。十円じゃない。百円を当てるのだ! 僕ならやれる。そして、もう一度同じスナック菓子を買うと見事にはずれの文字がそこにあった。  結局僕はおやつ無しで遠足に参加させられた。封の開いたスナック菓子はその場で二つとも食べてしまったからだ。湿気る前に食べた。それに遠足は楽しかった。想像していたような事象は一切起こらず、同情でみんなから分けてもらえた。担任の先生からはバナナをもらった。 「すまんな。大人は遠足におやつは持ってこないんだよ」 「ありがとう。バナナ」  僕は先生や友達にお礼を言い遠足を満喫した。やっぱりお菓子があると楽しい。
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