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消えた三〇〇円の行方
その日の夜、お父さんの口からとんでもない事実が判明した。
「三○○円? ああ、切符買うからちょうどいいなって持って行ったぞ」
そう聞いて震えた。僕の苦労はなんだったのか。間髪入れず言い放つ。
「お前の仕業か! クソ親父!」
僕は怒り狂った。悪びれていない呑気な言葉にストレスが爆破した。
本当に散々な目にあった。好きなおやつは買えなかったし。お母さんには僕のせいじゃないのに「あんたが無くしたんでしょ?」って言われるし。唯一もらえたのは親父の拳骨かもしれない。「何がクソ親父だクソ野郎!」って。大人ってほんと自分の都合の悪いことは別の事でもみ消してくるな。僕は頭を抑えて理不尽な仕打ちを呪った。
その日の内に、親父はなんだか歯切れの悪そうな顔で言った。
「遠足のおやつ代悪かったな。楽しみにしていたんだろ? お詫びだ」
野口英世をひらひらと振り手渡した。僕は飛び跳ねてそれを受け取った。親父がひどく反省しているということがわかり、僕は上機嫌になっていた。野口英世だ。僕は小学四年生ながらそう呟いた。まるで芸能人と対面したかのような感嘆ぶりだった。そして、僕は親父の理不尽な悪行を全て忘れたかのように許したのだ。
「やった! 野口だ!」
「ははは、現金な奴だな」
お父さんもそれで上機嫌になった。
こんな風にはしゃいでいた当時の僕を今は殴りたい。
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