青い空にしがみついて

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 たしかに、この人がおかしくなったのは、お金がなくなってからだ。それはしょうがないことかもしれない。だって、少なくとも世界中の多くの者たちが、お金がなくなって今までの価値観から何もかも変わってしまい、困惑しているのだ。  ぼくはね、別にお金があったころも今も、あまり変わらない生活をしているから、だいじょうぶなんだけど、人間っていうのは、もともとあったものがなくなると、その幻想にしがみついて離れなくなってしまうものなのかな。  ねえ、2枚もあれば、いったいどれだけ変わると思うの?  彼女は相変わらず、イライラした様子でぼくにあたりちらしている。  この人もかわいそうな人間なのかも。昔はお金持ちだったって自慢してきたっけ。でも、お金がなくなって彼女が今まですがってきたものは脆くも崩れてしまった。  すみません。こっちのミスで迷惑をかけてしまって。じゃああとで、残りも送ります。  ぼくは慇懃に謝りつつ、てっとり早い解決策を提案する。  もうほんと、しっかりしてよね。早く送ってちょうだい。  そう言うと、彼女は少し落ち着きを取り戻した感じで、またあのイヤなため息をひとつついた。  そもそも、こんなご時世に10万も貯めておいても、ひとりでどうやって消費するのだろう。誰かに配るわけでもないし。  じゃあすぐに送りますので、待っていてください。  ぼくは、そう言うと、向こうの返事も聞かずに電話をすぐに切った。  彼女の顔なんてもう見たくなかったからだ。  空間に映し出された立体画面の彼女は、驚いた顔を一瞬見せたが、すぐに表示されなくなった。
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