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溺れる
弘海の右手が史のグレーのボクサーパンツの中に滑り込んだ。ねっとりとした感触が、弘海の指に絡みついた。優しく、弘海の手が動き出した。
腰を浮かせて、史が息を漏らす。反対の手は乳首を強く摘まみ上げ、それにも史は身体をしならせて反応した。
「嫌・・・っ・・はぁ・・あ・・」
「・・・嫌か?」
耳の後ろから、弘海の熱い息を吹きかけられるように尋ねられて、史は必死に首を横に振った。
唇を噛んで堪える史の表情は、弘海をさらに熱くした。
史の中心を激しくこすり上げながら、弘海はもう固く熱く昴ぶった自分のそれを、横向きの史の背後に押しつけた。
身体を震わせる史の首筋からは、弘海を甘く痺れさせる香りが立ち登ってくる。おそらく「Lick」で噂になっていた「神懸かっている」というのは、このことなんじゃないかと、弘海は考えていた。
ともすると、一瞬で理性が吹っ飛んでしまいそうな、まるで媚薬のような香り。苦い経験をしてきてもなお清潔感のある白い肌と、男としてはしなやかな身体のライン、息が漏れる切ない声が相まって、それが史を抱こうとする男の情欲をさらにかき立てるのだろう。
現に、弘海の下で悶える史は、昼間に見る史とは別人だった。
今まさに達しようとして、顎を上げ、身体を震わせる姿に、弘海の心のリミッターが、無意識に外れてしまった。
弘海は史のはちきれんばかりになった中心を、根本でぐっと掴んだ。
「や・・っ・・」
「史・・・」
「やだ、もう・・・イく・・・っ・・から・・・」
「こっちで・・・イッたことあるか」
史の中心を捕らえたまま、弘海の反対の手の指がぬるりと後孔に侵入した。
「ひあっ・・・」
「ここでちゃんと感じたことあるか」
弘海の指が、軽く曲がる。前立腺に触れて、また高い声で史が鳴いた。
「なっ・・い・・・いつも・・・乱暴に・・挿れ・・られ・・」
「わかった」
「ひ・・・んっ・・・あっ」
「我慢しないでいいから」
「や・・っ・・おかしく・・なるっ・・・」
「大丈夫」
「あ・・・っあ・・もうやだっ・・・ひろみっ・・」
弘海は、震えが止まらない史を見下ろしながら、感じたことのない興奮と、愛おしさを感じていた。
史の目にわずかな涙が滲むのを見て、その気持ちはさらに強まった。
弘海はもう一度指の先で敏感なところを刺激して、同時に握っていた中心を解放した。
「ああぁ・・っんっ・・・」
全身を戦慄かせて、史は達した。その瞬間に、弘海は史の首筋に顔を埋めた。甘い媚薬に、脳の奥までが痺れた。
何度も弘海の指で達し、さらに弘海を受け入れて再び絶頂を迎え、今はベッドに力なく横たわる史は、穏やかな寝息をたてている。弘海は腕の中の史の髪を撫でた。起きる気配はなく、子供のように安心しきって眠っている。
ひとまわり以上も年の離れた史に、全てを飲み込まれそうな気持ちだった。
史を抱きながら、何人もこの体に溺れていった男たちの顔が浮かんだ。自分も同じになるのかと思うと、淫靡な背徳感と、わずかな優越感があった。少なくとも、史と自分は身体だけの関係じゃない。
そう思いながらも、弘海は自信がなかった。
もし、史が他の男を選んだら。
「Lick」の客にだって、史を狙ってる男が山ほどいる。それから守ったとしても、自分だけのものになるなんて保証はない。
弱っていた史には頼る相手がいなかった。そこに弘海が手を伸ばした。
それだけのことだと、弘海は思った。
史の額にかかる髪を指でよけると、くすぐったそうに顔を振って、うっすらと瞼が開いた。
「起こしたか」
「・・・ううん」
史は自分の額に当てられた弘海の手を握った。それを顔の前に持ってゆき、唇を寄せると、そのままもう一度眠りに落ちた。
(こんなはずじゃなかったんだけどな・・・)
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